「スカム」小林勇貴監督インタビュー【後編】 怒り狂う杉野遥亮のアドリブに「俺はこれが撮りたかったんだ!!」

「スカム」小林勇貴監督インタビュー【後編】 怒り狂う杉野遥亮のアドリブに「俺はこれが撮りたかったんだ!!」

放送中の連続ドラマ「スカム」(MBS/TBS)で振り込め詐欺に手を染めていく若者を映し出している小林勇貴監督。インタビュー後編では、主演の杉野遥亮さんの印象や作品に込めた思いを聞いた。(【前編】はこちら)

■「放送されるのが、快感で仕方がない」

振り込め詐欺に手を染めて“しまった”主人公の草野誠実(杉野)だが、成功体験やリーダーへの抜てきを経験し、次第に詐欺師としての才覚を発揮。自身の躍進に葛藤しながらも、着実に裏社会に身を堕としていく姿が切なく描かれる。大事な家族にうそをつく罪悪感を一人で抱え込みもがく一方、詐欺グループの中で居場所を見いだし、共に働く仲間も見つけた誠実。しかし、そこで見つけた希望も奪われてしまう。

「これしか方法がないからこの子たちはここにいて、そんな日々が楽しくて。こうやって自力で幸せを一つつかんだのに、なぜこうなってしまうのかという悲しみと悔しさは再現したいと思ったんです。ここには希望があったのに、なぜそれすらも…っていう」

新卒切りに遭い無職に。そして父親の大病のための多額の治療費の捻出、奨学金の返済。生きていくにはお金が必要。でも誰も助けてくれない、どうしようもない――。そんな時に目にした、裕福な老人たちが豪華な施設で人生を謳歌する姿。老尊若卑。格差社会。理不尽な社会に絶望した誠実の行く末には、果たして幸せはあるのだろうか。誠実は、どうすべきだったのだろうか。小林監督が、この作品を通して一番伝えたいことは何かを聞いた。

「最終話のある場面で、圧倒的な圧力を受けた杉野遥亮演じる誠実が『俺に触るんじゃねぇ!!』って怒り狂うんです。この作品の出発点を言えば、貧困に直面して追い詰められた若者の『税金を払っているのに誰も助けてくれない』という思いや、自己責任論をかざして彼らを追い詰める人たち、弱者を作るのは国なのに弱者を助けないのも国という実態に対して、だったら強者になりたい、その手段として犯罪をすることの何が悪い、という気持ちにさせたいというところからのスタートだったんです。そこから撮影が始まって、最終話の撮影で杉野遥亮から『俺に触るんじゃねぇ!!』って言葉がアドリブで飛び出した瞬間、『俺はこれが撮りたかったんだ!!』ってすごく思いました」

クランクアップから約1カ月が経過してからの取材だったが、小林監督が感じたその時の興奮は、まだ冷める様子を見せない。

「踏みつけてバカにして、指をさしてきたくせに、人が失敗したと思ったらそうやってつかんできて。そりゃ『触るんじゃねぇ!!』って思いますよね。でもこれって、何にでも言えるなって思いません? 今まさにニュースでやってるようなことに、みんな嫌悪感を抱いていて。今この時代に生きていて、みんなが嫌がっていることって同じなんですよ。今まで隠してこれたことにいろんなところから亀裂が生じて、悲鳴が上がり始めている今この時に、このドラマを撮ることができたのは本当にうれしくて。会社、家庭、学校、どこにいても襲ってくるいろんな圧力に対して、みんな『俺に触るな!』って言いたいと思うんです。だから誠実は時代の代弁者だし、そんな時代を言い表した言葉が台本ではなく、誠実を演じてきた杉野遥亮の口から出てきたってすごいことで。それが放送されるっていうのが、もう快感で仕方ないです」

■杉野遥亮は「共感性のバケモノ」

期待を超えるアドリブで見事誠実を演じきった杉野さん。以前杉野さんにインタビューさせていただいた際の話では「監督と、しっかり会話して作っていくという感じではなかった」(※1)とのことだったが、小林監督にそのことを伝えると「そうですね、細かく話し合うことはなかったです。朝会った時に『誠実、どう?』って聞くくらいで。その意味としては『今日撮るシーンの感情って何?』っていうことを聞いて、遥亮が『誠実はこう思ってるよ』って話をしてくれて、『なるほどな』って。そこからプランを考えて撮影に入ってましたね」と振り返る。杉野さんからの答えに対して、違うな、一致しないなと思ったことはあるのかを聞くと「なかったっすね!」と笑い、絶大な信頼を寄せている様子を見せた。

(※1:https://www.tvguide.or.jp/feature/specialinterview/20190719/02.html

小林監督から見た、杉野遥亮という俳優の印象を伺うと「共感する力がめちゃくちゃ高い方です。後半は杉野遥亮の狂気によって、“共感”を超えて“同一”になってましたね。トム・ホランドの『スパイダーマン』で、スパイダーマンとして街の平和を守りつつ普通の大学生としての人生を必死に生きていたピーター・パーカーが、次第にスパイダーマンを演じているのではなく『ピーター・パーカー=スパイダーマン』として描かれていくと思うんですけど、まさにそれで。遥亮も最初は誠実という役を演じてたんですけど、後半は遥亮そのものが誠実でした。共感性のバケモノですよ。本当に優しい男なんだなって思います」と熱く語る。さらに、撮影の序盤の頃に杉野さんが口にした言葉を振り返る。

「記憶に残っているのが、遥亮と前野(朋哉)さんと、若林(拓也)の4人で食事に行った時、『やっぱり詐欺はだめだよ』なんて話をしていて。僕は怒りに満ちてこれを撮ってるんで、『いや! (巻き舌になり)やればいい!! 全部ひっくり返しちまえ!』ってわーわー言ってたんですけど、隣に座ってた遥亮がそんな僕をずーっと見ていて。そしたら僕が一通りしゃべり終わった後に、遥亮がぼそっと『なんか…俺もそんな気がする…』ってつぶやいたんですよ(笑)。その頃はまだ半分も撮っていない段階だったんですけど、遥亮が、誠実を演じる上での栄養がしっかり摂れていることが分かったんです。誠実っていう役の要素が蓄えられていく貯金箱があって、その残高を言葉で表したとしたら『俺もそんな気がする…』になるのかなって」

■独特な音楽の使い方に「大事にしたいのは、正直であること」

第2話で誠実らが目の当たりにした、豪華なゴルフ場や温水プールではしゃぐ老人たちのどこか狂気じみた笑顔。誠実ら詐欺グループの若者たちが「格差社会」の現実を突き付けられるショッキングなシーンだが、小林監督が「露骨な悪意に触れた瞬間」を再現するためにBGMとして用いたのは、軽快な洋楽だった。

「劇中での音楽の使い方に関して、ライムスターの宇多丸さんをはじめとした多くの方から『独特だ』と言っていただけているんですが、絶対にやらないようにしていることが一つあって。“異化効果”というんですが、その場に合わない音楽を流すことで、日常的で見慣れたものを未知の異様なものに見せる効果なんですけど。正直、それはなんのためにやっているのか意味が分からないなって思いますね。逆に絶対にやろうと思っているのは、必ず文脈を踏まえて、そのシーンに対して一番自然な音楽を選ぶことですね。温水プールのシーンに関して言えば、そこで遊んでいる老人たちは心地よくて、リラックスしている。あの音楽に合う気持ちだったと思うんです」

小林監督がミュージックビデオ(MV)を手掛けたNGT48のシングル曲「春はどこから来るのか?」でも、印象的な音楽の使い方は健在だ。MVの冒頭で約1分にわたり、クラシック音楽にのせてどこか妖艶なポーズや表情を魅せるNGT48のメンバーが映し出される。そして彼女たちが部屋を飛び出して駆け出すと「春はどこから来るのか?」のイントロが流れ、曲がスタートする。

「あのMVは、本間日陽ちゃんがシングルの表題曲で初めてセンターに選ばれた時の感情を冒頭で表現しています。たぶん、あの曲みたいに『ふわぁ~』って気持ちなんじゃないかなと思うんです。あまりにも仕事がうまく進んだ時って、浮遊感というか、ふわってなっちゃうから。大事にしたいのは、やっぱり正直であることですね。そのシーンの気持ちに対して、ズレがないものを選ぼうと思っています」

作品に対して真摯に、さらに言えば社会や人々が抱く感情に対しても嘘をつくことをせず、正面から向き合う逃げない姿勢。それは小林監督が手掛ける作品の随所に散りばめられていると感じた。いよいよ後半戦に突入した「スカム」で、小林監督がクライマックスに向けて描きたいことを最後に聞いた。

「杉野遥亮演じる草野誠実が、やっと見つけた“詐欺”という止まり木さえも奪われて、振り回されて、利用されて…。傷ついてもがいている誠実を見て、きっと苦しいシーンはたくさんあると思うんですけど、ちゃんと面白いエンターテインメントになるように撮っているので。見てくださる方にとって、振り回されながらも一緒に考えるような作品になればうれしいです。それで最終回、みんなで『俺に触るんじゃねぇ!!』の大合唱ができたら、もうこれ以上のことはないですね」

【プロフィール】


小林勇貴(こばやし ゆうき)
1990年9月30日生まれ。静岡県富士宮市出身。監督作は、映画「Super Tandem」「NIGHT SAFARI」「孤高の遠吠」「逆徒」「全員死刑」「ヘドローバ」、ドラマ「GIVER 復讐の贈与者」(テレビ東京系)、「すじぼり」(U-NEXT独占配信)など。2019年秋には、映画「爆裂魔神少女 バーストマシンガール」が公開予定。

【番組情報】


「スカム」
MBS 日曜 深夜0:50~1:20
TBS 火曜 深夜1:28~1:58
※放送時間は変更の場合あり。

取材・文・撮影/宮下毬菜(MBS・TBS担当)

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