オリックス吉田正、山岡 セイバー目線で選出する7月の月間MVP【パ編】

オリックス・吉田正尚【写真:荒川祐史】

吉田正は文句なし あらゆる指標で突出した数字

 パ・リーグの7月の順位表は以下の通りとなっています。

日本ハム 16勝6敗 打率.262 OPS.708 本塁打16 防御率3.30
西武 11勝11敗 打率.241 OPS.765 本塁打24 防御率3.78
ソフトバンク 11勝12敗 打率.239 OPS.716 本塁打30 防御率3.86
ロッテ 11勝12敗 打率.236 OPS.796 本塁打26 防御率4.27
オリックス 10勝12敗 打率.240 OPS.697 本塁打17 防御率4.38
楽天 8勝14敗 打率.237 OPS.672 本塁打19 防御率3.14

 7月10日の前半戦終了時ではソフトバンクが2位日本ハムに7ゲーム差をつけていたものの、オールスター後のソフトバンクの失速、日本ハムの10試合9勝1敗という猛追により、7月終了時点で0.5ゲーム差にまで接近。1位から4位までも4.5差という混戦状態になってきました。

 楽天は美馬学、則本昴大、石橋良太ら先発陣の活躍もあり月間防御率3.14と投手陣が大健闘しました。しかし、打撃陣が出塁率.309と振るわず、援護率も2.96と防御率を下回る有様。得点源だったウィーラー、ブラッシュの両外国人が7月に入ってOPS0.700を下回る不調に陥りました。オールスター前までOPS.999、21本塁打だったブラッシュは後半戦に入って.596と失速。7月の三振率は43.6%とバットにボールが当たらない状況になってしまいました。

 セイバーメトリクスの指標による7月のパ・リーグ月間MVPを選出します。

7月月間MVP パ・リーグ打者部門

○吉田正尚(オリックス)
OPS1.123 wOBA 0.466 RC27 10.14 出塁率.433 長打率.690
(すべてリーグ1位)

 7月は吉田正尚が打率.359、30安打、7本塁打、21打点と主要な打撃指標すべてでリーグ1位となり、得点圏打率も.563と勝負強さも見せました。公式の月間MVPは確実でしょう。セイバーメトリクスの指標から見ても成績は突出していました。

 オールスター第1戦前に開催されたホームランダービーに出場し、4スイング4連発でその日の優勝を遂げた吉田正の平均打球速度は166キロ/hだったそうです。173センチとホームランバッターとしては小柄な部類に入るものの、並み居る強打者をも凌ぐスイングスピードの持ち主であることが分かります。にも関わらず空振り率は7%。ホームラン20本以上のパの打者では唯一の10%以下です。コンタクト率の高さとバレルゾーンを意識したスイングで長打を量産し、オリックス打撃陣を引っ張っています。

山岡、則本昴が僅差の争い HQS、RSAAで山岡に軍配

7月月間MVP パ・リーグ投手部門

○山岡泰輔(オリックス)
登板5 3勝1敗 投球回数32 FIP2.46 RSAA5.15 QS率60% HQS率40% 防御率3.09 WHIP0.94 奪三振37 奪三振率10.41 K/BB4.63

 有力候補の成績は以下の通りとなっています。

有原航平(日本ハム)
登板3 3勝0敗 投球回数21 防御率1.71 奪三振23 奪三振率9.86 被打率.155 与四死球13

美馬学(楽天)
登板3 1勝0敗 投球回数22 完投1 防御率1.64 奪三振18 奪三振率7.36 被打率.151 与四死球7

則本昴大(楽天)
登板4 2勝2敗 投球回数25回1/3 防御率2.13 奪三振30 奪三振率10.66 被打率.174 与四死球7

山岡泰輔(オリックス)
登板5 3勝1敗 投球回数32 防御率3.09 奪三振37 奪三振率10.41 被打率.188 与四死球9

 月間3勝、防御率1.71の有原が公式の月間MVP最有力候補とみられているが、月間の規定投球回数(22回)を下回っていることと、四死球の多さが気にかかります。美馬は1勝どまりですが、その1勝が7月19日のソフトバンク戦で8回までパーフェクトに抑え、結果2安打1失点の完投勝利というインパクトのある勝利でした。また、防御率がリーグ1位であることも高評価になるでしょう。則本昴は7月9日の今季初登板から3試合連続でクオリティスタート(QS)を達成。奪三振率11.37と復帰後も以前と変わらぬ投球でチームに貢献しました。

 セイバーメトリクスは以下の通りです。

山岡泰輔 FIP2.79 WHIP0.94 QS率60% HQS率40% K/BB4.63 RSAA5.15

則本昴大 FIP2.09 WHIP0.75 QS率75% HQS率25% K/BB7.50 RSAA5.12

有原航平 FIP2.79 WHIP1.05 QS率66.7% HQS率66.7% K/BB2.09 RSAA2.63

美馬学 FIP3.03 WHIP0.77 QS率100% HQS率66.7% K/BB3.00 RSAA2.16

 被本塁打、与四死球、奪三振のみで投手を評価するFIP、6イニング以上登板で自責点3以内に抑えた割合を示すQS率など各指標において、山岡と則本昴が僅差で競っています。有原は四死球の多さによりFIPが伸びず、美馬は他の3投手と比べて奪三振数の少なさが要因でFIPが3点台となっています。

 山岡と則本昴は、甲乙付け難いデータですが今回は7回以上登板で自責点2以内に抑えた割合を示すハイクオリティスタート(HQS)率、そして平均的な投手に比べてどれだけ失点を防いだかを示す指標、RSAA(リーグ平均FIP-選手個人のFIP)×投球回数/9の優位差を考慮して山岡をパの月間MVPとして推挙します。鳥越規央 プロフィール
統計学者/江戸川大学客員教授
「セイバーメトリクス」(※野球等において、選手データを統計学的見地から客観的に分析し、評価や戦略を立てる際に活用する分析方法)の日本での第一人者。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、テレビ・ラジオ番組の監修などエンターテインメント業界でも活躍。JAPAN MENSAの会員。一般社団法人日本セイバーメトリクス協会会長。

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