南米から移住した女性の出産を20年支えた医師

 ペルー出身の産科医が大切にしてきたこと

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診察室で笑顔で話すカサノバ・エクトル医師

 「心配ない。元気な子が生まれるよ」。診察室のボリビア人の妊婦を、優しげな目元の産科医カサノバ・エクトルさん(70)=名古屋市=がスペイン語で励ました。ペルー出身のカサノバさんは、南米から移住してきた女性の出産を20年以上支えてきた。ポルトガル語、英語、日本語を加えた4カ国語で診察をこなす。「母国語だとリラックスしてもらえる」。古希を迎えた今も、言葉や慣習の違いから不安の多い日本での出産を見守り続けている。

 カサノバさんが日本に来たのは1980年。がん治療の研究で名古屋大医学部に留学したときだった。85年にペルーに帰国すると、母国は未曽有の不況に襲われていた。ガーゼすら不足する状態。研究もままならない。再来日し、家族を養うため95年に日本の医師免許を取得した。

 厚生労働省によると、国内で出産する外国人は2017年に約2万5千人。愛知は約2800人で東京に次ぎ2番目に多い。

 これまでに岐阜、愛知両県の10以上の病院に勤務した。健康相談も交えた診察が評判となり、東海地方の4県から出稼ぎの南米日系人が殺到した。医療制度を知らない人も多く、説明で診療時間が通常の3倍かかることもあった。

 ペルーでは心を開いて接するのが良い医師の条件とされる。カサノバさんは「日本の病院は診察が短く、十分な相談ができないという患者が多かった」と振り返る。

 外国人妊婦は、言葉に不安を抱えるケースが多い。そのため、日本語ができる娘や親戚の子を通訳に連れてくることがある。「子どもには負担が大き過ぎる」と、受診時に病院へ付き添う外国人の医療通訳者の養成が必要だと痛感した。

 カサノバさんは2007年から毎月、愛知県や三重県のNPO法人などが開く通訳育成講座の講師を務めた。愛知県は12年度に医療通訳を病院へ派遣する仕組みを整えた。少しずつだが、改善は進んでいると感じている。

 家族と永住するため、7年前に日本国籍を取得した。70歳となった今、24時間体制の勤務は難しく、外国人向けの診察も、同県豊田市の病院での週1回だけになった。「日本で育った外国人の子で、多言語で診察できる医者が出てほしいね」。後継者の誕生を心待ちにしている。(共同通信=柴田智也)