人生をやり直したい…40歳になって猛勉強し大学まで行った男がなぜ生活保護をもらい犯罪を犯すまで堕ちたのか

ダメに決まってますよ、売ったら(写真はイメージです)

高校中退後、警備員等の職を転々とし逮捕される6年前から生活保護で生活。
「犯罪による収益の移転防止に関する法律違反」という罪で起訴された澤井潤一郎(仮名、裁判当時60歳)の簡単な来歴です。

「つい贅沢をしたくなった」

という理由で生活保護費を使い果たしてしまった彼は「ダルマ屋」というヤミ金業者に「銀行の通帳とカードを買い取る。地銀は5000円、他は10000円」という話を持ちかけられ、4つの銀行口座をヤミ金に売ったことで上記の罪状で逮捕されました。

競馬や競輪などのギャンブルにもお金を使っていたようです。彼が売った口座は不特定多数の人間が使っていたことが判明しています。どのような使われ方をしていたのかは法廷では触れられませんでしたが、容易に想像ができると思います。

起訴されているのは4つの銀行口座の売却に関してのみですが、彼は他にも多数の銀行口座を持っていました。

ここまでの情報で、彼に対してどのような印象を抱くでしょうか?

「安易な考えと自堕落な生活で犯罪に走った短絡的な男」
と蔑む人もいると思います。
「生活保護で生かされているくせに…」
と憤る人もいるかもしれません。

彼が高校を中退した理由は統合失調症のためでした。今でも精神障害に対する偏見はあります。彼が高校に通っていた40年前はさらに風当たりも強かったことでしょう。高校を卒業できなかったのも仕方ない面があると思います。

それからは警備員などの職業を転々とする生活になりました。40歳になってすぐの頃です。症状も寛解してきた彼は1つの決心をします。

「もう一度、人生をやりなおそう」

今までに貯めた貯金を使って、彼は働きながらNHKの通信教育を受け始めました。高校を中退していた彼はまず高卒認定を取り、そして大学入試を経て大学に通い始めたのです。

「英語や体育の授業が好きでした」
と、人より少し遅れて始まったキャンパスライフについて話していました。しかし大学3年まで進級した時点でお金が続かなくなりました。

「計画性がない」と言う人もいるかもしれません。しかし、高校中退の彼がそう高給の仕事に就けたとも思えませんし十分な貯金が出来ていたとも思えません。

「人生をやり直したい」
その一心で見切り発車で大学に行ったことを責めることができるでしょうか。卒業こそできませんでしたが、彼なりに必死に人生を生きようとしていたのです。

大学を辞めた後、彼は事業を始めました。まだ人生を諦めてはいませんでした。その事業も関係者が失踪したことから失敗に終わりました。ヤミ金から借金をし、自己破産をすることになってしまいました。

その後、結核などの病気を患い働けなくなった彼は生活保護を申請しました。

生活保護で生活するようになった頃には彼の心は折れてしまっていたかもしれません。それでも彼も生きるために、幸せになるために、懸命に闘っていた時代もあるのです。

弁護人は裁判では罰金刑でなく執行猶予判決にするよう求めました。

貯金もなく罰金を支払えない彼にとって罰金刑は労役行きを意味します。しかし判決は罰金30万円というものでした。

裁判官は、
「今回の罪の法定刑は『100万円以下の罰金』です。それが4つあるから加重で400万円以下の罰金。30万円なら安いです。悪いことしたんだから少しは痛みを受けないとダメですよね。でも検察官もあなたのことを考えてこの金額にしたんだと思います。辞めたとはいえ大学にも行ってたんだし、あなたは本当は一生懸命できる人でしょ? 少しでも働いて、自分の罪の責任を自分で取れる人であってほしいと思っています」
と説諭を加えていました。

ネット上では生活保護受給者への心ないバッシングをよく見かけます。生活保護受給者にも、それぞれの事情がありそこに至るまでにはそれぞれの人生があります。彼らを責めるよりも理解し支えること、それが社会に必要なことだと思います。(取材・文◎鈴木孔明)

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