レコメンドウィジェットにおけるアドベリフィケーションの課題と対策
〜popIn株式会社 第2回nor.オフ会「Guest Talk」セッションより

読者に信頼性のあるコンテンツと広告を届け、メディアブランドと広告価値を守る

 年間1兆8000億円を超える規模となったネット広告市場。デジタルメディアを取り巻く市場は一見順調に見えるが、「アドフラウド」「フェイク広告」「インフルエンサーの水増し」など不正広告への対策も急務だ。「bot」「Hidden Ads」など、アドフラウド(広告詐欺や不正広告)は広告費全体の9.1%(ネット広告会社調べ)を占めるともいわれ、NHKで放送されたクローズアップ現代「ネット広告の闇」は大きな反響を呼び、ネット業界に激震が走った。

 不正広告は広告主と広告代理店・広告配信会社だけの問題ではない。ADネットワークやSSPなど、複雑な仕組みから配信されるネット広告は、ネイティブ広告としてメディアに表示され、コンテンツとの境目が読者にわかりづらくなっているケースが多い。フェイク広告を目にした読者は、メディアの広告掲載基準がクリアされた広告と認識し、メディアの信用も失墜するのだ。

 ただ、多種多様なネットワークから配信される不正広告を完全に防ぐことは難しい。読者に安全安心なコンテンツと適正な広告を表示し、メディアと広告主のブランドをどのように守っていくのか?
 国内850を超すメディアにレコメンドウィジェットを提供するpopIn株式会社の執行役員 西舘亜希子氏と、様々な媒体においてメディアパートナーを務めるブラボーワークス株式会社の代表取締役 保呂田貞行氏は2019年7月29日、第2回nor.オフ会で「ブランドセーフティ」をテーマにパネルディスカッションを行った。

ネイティブアドの変遷

西舘:2009年はバナーブランドネスと言われ、4%のヘビークリッカーたちがバナークリック全体の70%を占めていました。そして、2015年にネイティブ広告のブームが始まり、広告プラットフォームが飽和状態になり、次世代プラットフォームとして、レコメンドウィジェット型が拡充してきました。
 2018年には、レコメンドウィジェットがコンテンツディストリビューションの標準となり、コンテンツへユーザーを誘うためのソリューションとして確立して、コミュニケーションプランニングにおいて当たり前に使われるようになりました。
 そして2018年後半には、広告主のブランド毀損リスクへの意識が高まり、ブランドセーフティが必須の時代となりました。

「記事も広告も、安全に正しい情報を生活者に届けること」がミッションと述べるpopIn株式会社 執行役員 西舘亜希子氏

ブランドセーフティが当たり前に。ただし対策は後手に

西舘:popInは、大手クライアント様からも求められている「ブランドセーフティ」に注力し、ADネットワークの規模を拡大しています。これが、ネイティブ広告の現在のトレンドです。レコメンドウィジェットは、数多くのメディアに搭載され、ブランドセーフティが必須となる時代になってきます。popInは、それが当たり前の時代になって来たと考えています。アドフラウドは、反社会的勢力にお金が流れているということもあり、その対策は避けては通れない問題です。

保呂田:(膨大なスマートフォンがラックに並び、不正クリックされている写真を見て)本当に衝撃的な映像ですね。一目瞭然で、ドキッとします。

西舘:広告主が、きちんとした媒体に広告を出稿しているはずが、このような事態が起こっています。popInは、ブランドセーフティに対し、目を背けてはならないと強く考えており、2019年2月に国内のブランドマーケッターの方にアンケートを実施しました。
 アドフラウド、ビューアビリティについての認知調査を行ったところ、内容は知っているとの回答が過半数を超えています。ただ、実際に対策をしていると回答した方は、まだまだ少ないのが現状です。
 popInは、広告が適正に表示・運用され、ブランドセーフティへの取り組みを強化するよう、アドベリフィケーション対策の企業「MOMENTUM社」「IAS社」「Oracle社」との連携を実施しています。特にナショナルクライアントはとても敏感で、DSP/SSPやADネットワークでもアドフラウドが除外されているところが選定され、出稿額が増えています。

求められるコンテンツの信頼性 NHKのクローズアップ現代「ネット広告の闇」で大きな反響

西舘:コンテンツの信頼性という原点に立ち返りたいと思います。以前、NHKのクローズアップ現代で「ネット広告の闇」が放送されました。

保呂田:これは色々なところで、影響があったと声が届いています。弊社では、琉球新報様との取り組みの中でも、やはり大きな懸念の1つとなりました。クローズアップ現代放送後にどのような問い合わせがあったのかを踏まえて、紹介していきたいと思います。

西舘:ノアドット社の this.kiji.isドメイン配下にpopInウィジェットを掲載していただいていますが、ノアドットの担当者様からもメディアの価値を毀損しないようにとの指摘を常々受けています。記事も広告も安全で正しい情報を生活者に届けること。これはpopInの使命と考えています。

保呂田:実際に琉球新報さんが不安視されていた点は、「フェイク広告が実際に表示されていたのか?」「popInの広告審査基準はどのようになっているのか?」ということでした。

西舘:popInでは「広告掲載基準の順守」や「広告出演タレントとの契約書コピー提出を義務付ける」などの運用も行い、広告の入稿と掲載を行っています。

保呂田:やはりこのような形のエビデンスも含めた広告審査基準を媒体側にお伝えすることによって、媒体様側の理解度も格段に高まったと思います。広告審査基準はどのようになっているのか、広告審査はどのように行われているのかということは、やはり考えなければならないですね。

「我々はメディアパートナーとして、各媒体様を100%、120%理解しなくてはいけない」と述べる、ブラボーワークス株式会社 代表取締役 保呂田貞行氏

編集と広告、そして外部の人間が協力してメディアに良いスパイラルを

西舘:記事下にレコメンドウィジェットが表示されることにより「記事下にどのような広告が表示されるのか?」「記事とのコンテキストは?」が重要になってくると考えています。読者にとって、記事と広告との境目が曖昧になってきている中、不安になるような広告表示の対応について、琉球新報さんとはどのようにコミュニケーションされていますか?

保呂田:琉球新報さんも含めて他の媒体でも、コンテンツと広告の担当が別々のケースが多く見られます。コンテンツ担当、広告担当といる中で、バランスを取るということが難しいと実感しております。琉球新報さんとは普段のやり取りの中で、それらのバランス感をもとにNG広告などの監督を一緒にさせていただいております。

西舘:メディアの方々から編集部の意見と、広告の意見を色々お聞きしていますが、良いコンテンツを作るためにはマネタイズが必要という部分、どのように調整されていますか?

保呂田:負のスパイラルを作らないことが一番だと思います。良いコンテンツを作って良い広告を出す。安心安全の基準のもと、良いスパイラルが生まれてくると思います。そういった観点のもとで、さまざまな提案をしています。

西舘:メディアの抱える方針はそれぞれ違うので、そこを理解することが必要ということでしょうか?

保呂田:そうですね。我々はメディアパートナーとして各媒体様を100%、120%理解しなくてはいけないと考えています。メディアの方々にも我々を理解いただき、お互いの理解度が完全にマッチする状態に持っていければ、好ましいと思います。

西舘:紙とWebの両方を持つメディアもあれば、Webに特化し編集もマネタイズも一気通貫で運営しているメディアもあります。人員体制などさまざまな構造的問題を抱えるメディアもあるかと思います。どのようにサポートしているのでしょうか?

保呂田:私は、光文社「女性自身」のWebサイトに初期段階から携わりました。2008年頃は、ブログサイトの延長線のようなサイトだったのですが、ニュースサイトに形を変え、徐々に人員体制が増えてきたという経緯があります。
メディアの目的を明確にすることで、内部の人間だけでなく、外部から携わる人も増えていきました。
 レコメンドウィジェットの登場により、コンテンツと広告を一緒に考えられるきっかけとなりました。サイト全体を考える上で、外部の人たちの意見が指標になり、参考になる部分も大きい。外部の意見も取り入れ、活性化できるような取り組みが必要になると考えています。
そして、何が「信頼」できる意見・事例なのかを一緒に考えさせていただいております。

信頼性のあるコンテンツと透明性を持ったADネットワークを構築していく

西舘:先ほど「信頼」というワードが出てきました。私の考える信頼はまず、一次情報メディアが読者に有益なコンテンツをどのように発信していくかという点が大きなポイントだと思います。そして、コンテンツと広告によるマネタイズの両輪を組み合わせて収益化を図っていく。
 アドフラウドとビューアビリティへの対策をしっかりと行い、広告主とメディアを繋げる。良いメディアの広告枠を正当にバイングし、透明性をもったADネットワークを目指していきたいと思っています。
 また、メディアの広告掲載基準の多様化にも対応していきたいと考えています。メディアの価値観はさまざまなので、権限を付与し透明性を持って見られるような環境づくりをしていきたい。popInは、マネタイズの強化と内部回遊の強化により離脱を防ぐことが可能なADネットワークを目標にやっていきたいと考えています。メディアパートナーとして、今後どのような考え方でやっていかれるのですか?

保呂田:やはり、内部と外部を交えてチームを強くする。メディアとしてのチームをどんどん強くするということが肝な部分と考えています。それこそ、パートナーとしての我々の役割です。チームを強くして目的を見据えて、それに向かって頑張っていく。そのために、皆様の知恵と参考をお借りしたいと思います。

西舘:メディアの方からも意見をぶつけて欲しいし、私たち配信事業者からもソリューションの正しい情報を伝えていきたいと思います。メディアによっては、人を採用してデジタルに特化するといったことは、なかなか難しい状況だと思いますので、私どもを上手く使って欲しいと考えています。

保呂田:そうですね。強みを最大化して、上手く利用していただければと思います。

西舘:popInは、ビューアビリティやアドフラウドへの対策を今後も続けていきたいと思っています。メディアの皆さまとは認識の齟齬がなくしっかりと運営することを目指していきたいと考えています。今後も何かありましたら、叱咤激励含めご意見をいただければと思います。本日は、ありがとうございました。

保呂田:ありがとうございました。

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