駅前のドキュメンタリー映画の聖地 ポレポレ東中野

©株式会社シネマトゥデイ

バオバブの木がモチーフになったアートがビルのいたるところに。前のベンチには休憩するお年寄りの姿も。

 良い呑み処、活気ある繁華街、銭湯も多く、大好きな中野区。東中野はJR中央線で新宿から2つ目、都営地下鉄大江戸線も通る。圧倒的個性を放つ、中野区内で唯一の映画館「ポレポレ東中野」は、2003年に閉館した「BOX東中野」が新たな運営で再オープンした姿。“ポレポレ”は、スワヒリ語で“ゆっくり”という意味だ。ビルのオーナーで写真家、映画『アレクセイと泉』(2002)の監督でもある本橋成一が代表のポレポレタイムス社が運営していたのが由来。

今月の映画館「ポレポレ東中野」

駅のホームからも良く見えるビル。

 駅のホームから見える7階建てのビル建物で、1階はカフェ、2階は居酒屋“魚民”。JR東中野駅西口から徒歩30秒のところにある。エレベーターもあるが、まだ降りるの? と思うほどどんどん階段を下る。途中に膨大な種類のチラシが間口の広さをうかがわせる。ロードショー作品から都内名画座、上野オークラの“オークラ新聞”、さまざまなワークショップ、アングラな芝居の手書きのもの、反戦講座情報などなど。

 ここでしか上映されない作品、ドキュメンタリーや新人作家によるインディペンデント系が中心。「BOX」時代からいろいろと観たけど、「ポレポレ」になってからは『赤目四十八瀧心中未遂』(2003)、『イン・マイ・スキン 人には言えない、私が本当にしたいこと』(2002)、『空中庭園』(2005)、『いのちの食べかた』(2005)、『ミリキタニの猫』(2006)、ダイエットをテーマにトークショーをご一緒したことのある関口祐加監督の『毎日がアルツハイマー』(2012)などと、やっぱり半分はドキュメンタリー、考えさせられるものばかり。頻繁にトークショーがあり、時には観客の何割かは関係者なのか、始まる前にロビーで盛り上がっていたりして、映画館というより芝居小屋みたい。

階下への踊り場は3つあり、第一踊り場にはチラシが所狭しと並ぶ。

 チケットはカウンターで販売。ロビーの物販コーナーには本橋監督関連商品、映画の書籍が並ぶ。自動販売機はなく、ガラス瓶のバヤリース、サイダー、ウーロン茶。おいしいと定評のあるクッキーと、ジンジャーエールを注文する。

エコを意識した瓶の飲み物は、本棚に見本が羅列。

 画面をより広く取るために底が深いのだ。予想を超える大きさに圧倒、席数は96席。さらに傾斜があり非常に観やすい。超満員のときは、パイプ椅子席と座布団が出ることも。

支配人・大槻貴宏さんに訊く

第三踊り場は、上映中の作品のギャラリーとなっている。

 「閉館時、ビルのオーナーが続けたいということで、支配人の公募があり、共通の知人に紹介され、応募しました。昨年分社化でわたしが映画館と、2006年からある1Fの『Space & Cafe ポレポレ坐』の代表になりました」

 大槻さんは長野県出身の52歳、僕と同じ学年でいらっしゃる。アメリカの大学で映画プロデュースを学び、専門学校で映像制作の講師をしたのち、1999年に下北沢に短編専門の映画館「トリウッド」を奥様と共に開館、現在2館を経営。

 「朝10時に東中野に来て、夕方5~6時に下北沢へ行く、という生活を基本ずっとしています。前の経営の方たちとは会う機会がないのですが、新宿や渋谷からちょっと離れた場所にすでにハッキリとあった個性をありがたく継承させていただきました。下北沢、東中野共にターミナル駅ではないので、何かのついでに映画を観る場所でなく、わざわざ足を運んでいただくわけですから、他でやらない上映をします。映画は生ものなので、フレキシブルに、このタイミングはこれ、と3日前に決めて緊急上映したりします」

 ドキュメンタリーはフィクション以上に人間がしっかり描かれていて、観る人の心に響く。

 「知らずにフラっと来ても、面白い、と思われるものをやりたいですね」

 9月末上映予定の文化記録映画『春画と日本人』(2018)は、大英博物館での春画の展覧会ののち、それを日本で開催しようとしたが、どこの美術館もNG、結局、永青文庫で展示し20万人超を動員、60%は女性だった。そんな顛末を記録した作品。

 「僕たちは春画は美術だと思っているし、なぜ日本ではどこもやらなかったのか、芸術とは何か? という疑問を投げかけたい。少々冒険ですが、18禁で、昼間の上映をします」

全席自由席にこだわる理由

チケット、物販、すべてカウンターで。

 その日の初回上映20分前に、当日すべての回の整理番号付き当日券を発売。各回入れ替え制。ネットのチケット予約は未導入だが、検討中という。

 「いま、悩んでいます。気軽に予約できるのはメリットですが、お客さんの割合は、やはりシニアの方が多く、ネットを使えない方もまだまだいます」

1Fのカフェは落ち着けるスペース。奥にステージ。

 お客様が明らかにキャパオーバーのときは、1Fのカフェを半分に仕切って、40人くらいまでは入るのでそれで対応している。「『誰がために憲法はある』の主演渡辺美佐子さんの舞台挨拶や、一水会の鈴木邦男さんのトークイベントは、下と上、両方でやっていただきました(笑)」

制作者の“観せたい”が本物かどうか

『SHIDAMYOJIN シダミョウジン』 ロード“盆踊り”ドキュメンタリー 遠藤ミチロウ 監督:遠藤ミチロウ 小沢和史 2017年

 名画座として機能することもある。2009年に行った自伝刊行記念回顧上映「女優 岡田茉莉子」では34本の出演作品を上映。

 「岡田さんはほぼ毎日いらっしゃって、旦那様の吉田喜重監督とお二人で独立プロをされているので、ご自分が来場すればお客様も来ると、さすがの金銭感覚をしっかり持たれていました」

 作品の選定で、こだわりや基準は?

 「16年やってきて、お陰様で現在は“上映してほしい”という場合がほとんどです。最終決定はわたしがしますが、特に明確な基準はなく、配給会社がなく個人でもかまわないのですが、大事なのはまず面白いかどうか。商品として、売れるものでないとしょうがない。そして、制作者が“本当にお客さんに観せたいと思っているか”。上映することがゴールではなく、ちゃんと自分でお客さんを動員する人であること。そこを見ます」

 会って話を聞き、最終的に決定する。

 「そして、他館でやる作品と何が違うのか、なぜうちでこれをやるのか、しっかりと言語化する必要があります」

 2017年には、『憐 Ren』(2008)、『魔法少女を忘れない』(2011)などの堀禎一監督の『夏の娘たち ~ひめごと~』公開を記念した特集上映を開催。

 「トークショーもあって堀監督は当館に毎日来ていたが、上映期間中にくも膜下出血のため47歳で亡くなりました。彼にはいつも『あなたは天才なんだから、どんどん撮ってよ』って言ってたので、本当に惜しかったです」

 その遺作を8月10日から再上映する。

自由過ぎるイベントや展示

 ミニシアターだから可能な、ライブやイベントなど、ユニークな催しを作品ごとに企画。特に面白かったものを訊くと、「柴田剛監督の『堀川中立売(ほりかわ なかたちうり)』(2010)の時は、1階の入り口からロビーまで全部にビニールシートを敷き、観客スタッフ入り交じってお酒を飲み、新年会をやりました(笑)。あれは一番印象に残ってます」

 村上浩康監督の『東京干潟』『蟹の惑星』上映中は、お客様に、出演のおじいさんが多摩川で獲ったシジミのお味噌汁を無料で振る舞い、また、河口の生きたカニたちを『蟹の惑星』の主人公・吉田唯義さん監修で飼育。カニの巣作り、脱皮殻なども展示、ロビーは小さなカニ博物館と化した。

穴場、東中野と共に

お洒落な盛り付け。劇場の当日半券を提示すると、アルコール以外のドリンク、フードが100円引きに。

 もつ焼き「丸小」は閉店、またムーンロード商店街は、東中野食堂がなくなってからお店は半減、寂しくなった。でも、東中野本通り共栄会にはアクア東中野、東中野銀座通り商店街には健康浴泉という素晴らしい銭湯がある。大槻さんはオープンまでの準備期間の4か月、ひたすら東中野の街を歩いたという。

 「何があり、どんな人が居るのか、わかったことがいっぱいありました。ここは山手通りの内側で、代官山同様、立地としては申し分ない。2012年に駅ビル・アトレヴィ東中野ができて、かなり変わりました、こんなに人が居たんだ、って。いま大久保は大人気だし、中野も人があふれています。間の東中野もポテンシャルは高いはずです。先日家族で行った、アフガニスタン料理屋の“パオ・キャラバンサライ”はお薦めですよ」

 取材終了後、1Fのカフェへ。奥にステージ、ビルのオーナーの本橋監督の写真が飾られ、壁にも沢山の作品。食事は映画の半券で100円引きに。ポークのキーマカレー、お肉その他の食材は、障害を持つ人のための社会福祉法人(授産施設や共働学舎など)から調達。お酒やドリンクも豊富だが、珍しい無農薬栽培のびわ茶をいただく。祝島(山口県)産で、大体が映画で関わったところからの仕入れ。旨い、これは試さにゃ損、ソン!

映画館情報

ポレポレ東中野
〒164-0003
東京都中野区東中野4-4-1ポレポレ坐ビル地下
TEL:03-3371-0088
席数:96席
公式サイト
Twitter:@Pole2_theater

ラジカル鈴木 プロフィール

イラストレーター。映画好きが高じて、絵つきのコラム執筆を複数媒体で続けている。