小池壮彦 「東京の幽霊事件」- 三河島の赤飯、歌舞伎町の傷痍軍人...土地の記憶と怪談繋ぐ

三河島の赤飯、歌舞伎町の傷痍軍人…土地の記憶と怪談繋ぐ

秋葉原、面影橋などで語られてきた奇談に江戸名所図会などを重ねかつての姿を浮かび上がらせる怪奇ノンフィクション。阿部定と二・二六事件が起きた昭和11年、三河島に沸き起こった「赤飯怪談」は岡本綺堂「廿九日の牡丹餅」にある、安政元年に厄除けと食べ物の流言飛び交った騒動と大変似ており面白い。“いま綺堂”のごとく、文献だけでなく古老への実地聞き取りなどで怪談が生まれる「場」の所縁や伝説と繋げる著者の面目躍如だ。

また、著者自身の歌舞伎町での体験談は傷痍軍人ドキュメンタリーをラブホで撮るという行為自体のいかがわしさ含め本書の白眉。同じ90年代に「ゆきゆきて、神軍」で知られる元兵士・奥崎謙三をAV女優と絡めた「神様の愛い奴」など大戦経験当事者とアングラ文化が辛うじて結びつこうとしていたことを思い出した。今だと不謹慎と言われそうだが血肉通った試みであり、時代を切り取った貴重な記録と言える。(尾崎未央)

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