【高校野球】智弁和歌山、選球眼で初戦突破 データで楽しむ夏の甲子園【3日目・第1、2試合】

第101回全国高等学校野球選手権、3日目の結果一覧

智弁和歌山は投手戦も試合後半で球を見極める

 大会常連校の試合が相次いだ夏の全国高等学校野球選手権大会3日目の第1、2試合。セイバーメトリクスの指標で各校の闘いぶりを振り返ってみます。

 指標の説明は以下の通りとなっています。

OPS 出塁率+長打率 1を超えると優れている
wOBA 各プレーの得点価値を累積して算出した打撃指標
O-swing% ボールゾーンに来た球をスイングした割合
Z-swing% ストライクゾーンに来た球をスイングした割合
Swing% スイングした割合
O-contact% ボールゾーンに来た球をスイングした際にバットにボールが当たった割合
Z-contact% ストライクゾーンに来た球をスイングした際にバットにボールが当たった割合
Contact% スイングした際にバットにボールが当たった割合
Zone% ストライクゾーンを球が通過した割合
SwStr% 空振り率
WHIP 1イニングあたりに許したランナーの数
P/IP 1イニングあたりに投球した球の数
GB/FB フライに対するゴロの割合

○智弁和歌山 8-1 米子東

【智弁和歌山】
打率.371 OPS0.993 wOBA0.445
O-swing% 16.5% Z-swing% 69.9% Swing% 41.1%
O-contact% 50.0% Z-contact% 90.2% Contact% 81.5%
Zone% 46.2% SwStr% 7.6%

【米子東】
打率.219 OPS.461 wOBA.241
O-swing% 27.0% Z-swing% 72.9% Swing% 57.0%
O-contact% 20.0% Z-contact% 84.3% Contact% 73.8%
Zone% 65.4% SwStr% 15.0%

智弁和歌山・池田陽佑投手の各指標

8イニング 打者数30 投球数98
WHIP1.00 P/IP12.25 GB/FB2.14
ストレート51.4% スライダー41.8%
Zone% 64.3% 空振り率 11.2%

米子東・森下祐樹投手の各指標

5回2/3イニング 打者数27 投球数100
WHIP1.94 P/IP17.65 GB/FB1.57
ストレート54.0% スライダー12.0% カットボール29.0%
Zone% 46.0% 空振り率 8.0%

 試合前半までは両チーム3安打ずつの投手戦の様相を呈していました。試合が大きく動いたのは6、7回。智弁和歌山の下位打線が集中打を重ね、この2イニングだけで6得点し、試合の主導権をものにしました。当初、智弁和歌山打線は米子東の森下投手のストレートとカットボールの組み立てに的を絞れず、4回までで空振り率は10%を超え、空振り三振を5つ奪われていました。しかし5回以降、球を的確に捉えられるようになると、甘く入ったカットボールを快打し長打を生み出したのです。

 終わってみれば、両チームのOPS、wOBAともに倍の開きとなりました。智弁和歌山はホームランこそありませんでしたが、二塁打、三塁打と長打を重ねたこと、そしてO-swing%16.1%、空振り率7.6%からもわかるようにしっかりと球を選別し出塁率を上げたことで、OPSは1近くまで跳ね上がりました。

 智弁和歌山の池田投手は序盤から積極的にストライクゾーンに球を投げ込む強気の投球スタイルでペースをつかんでいきました。Zone%64.3%はこれまでの投手の中でも高い部類で、ストレートでのZone%は実に7割となりました。そして、そのストレートで奪った空振りは10%以上とこちらも高水準です。球数も8イニングで98球と抑えることができました。

明徳義塾は出塁率と確実にバットに当てる打撃で藤蔭を上回る

○明徳義塾 6-4 藤蔭

【明徳義塾】
打率.194 OPS.555 wOBA0.291
O-swing% 24.4% Z-swing% 62.8% Swing% 43.1%
O-contact% 85.0% Z-contact% 89.8% Contact% 88.4%
Zone% 48.8% SwStr% 5.0%

【藤蔭】
打率.250 OPS.567 wOBA.285
O-swing% 32.1% Z-swing% 62.9% Swing% 49.2%
O-contact% 44.4% Z-contact% 86.4% Contact% 74.2%
Zone% 55.6% SwStr% 12.7%

明徳義塾 投手の各指標

林田大成
5回1/3イニング 打者数22 投球数63
WHIP1.31 P/IP11.81 GB/FB1.29

山田圭祐
2回2/3イニング 打者数11 投球数43
WHIP1.13 P/IP16.13 GB/FB2.00

新地智也
1イニング 打者数5 投球数20
WHIP1.00 P/IP20.00 GB/FB1.50

藤蔭 投手の各指標

小宮大明
5イニング 打者数21 投球数101
WHIP1.20 P/IP20.20 GB/FB1.00

高田大樹
1イニング 打者数9 投球数27
WHIP5.00 P/IP27.00 GB/FB0.75

片平真
3イニング 打者数9 投球数32
WHIP0.00 P/IP10.67 GB/FB3.00

 打率で見ると、藤蔭が.250と明徳義塾(.194)を上回っていますが、出塁率では明徳義塾.297、藤蔭.289。各プレーの得点価値を累積して算出するwOBAでも明徳義塾.291、藤蔭.285とわずかながらではありますが、明徳義塾が上回っています。そのわずかな差が今回の得点差を生み出したと考えられるでしょう。明徳義塾は4、6回に相手の与四死球や失策につけ込む効果的な攻撃で6点を奪います。なお明徳義塾の空振り率は5%と少なく、確実に当ててくるバッテイングが目立ちました。

 明徳義塾の林田投手はストレート6割の構成でピッチングを行なっていましたが、藤蔭は初球のストレートに的を絞ったのか、3回1死から5人連続で初球攻撃を仕掛けます。4回は3者3球でイニングを終えてしまいましたが、これが6回の反撃につながることになります。6回に集中して放たれた5安打のうち4本は甘く入った変化球でした。

 なお、明徳義塾のクローザーを務めた新地投手の投じた20球のうち19球がストレート。空振りは1つしかとれてませんが、コーナーをつく丁寧な投球で抑えることができました。鳥越規央 プロフィール
統計学者/江戸川大学客員教授
「セイバーメトリクス」(※野球等において、選手データを統計学的見地から客観的に分析し、評価や戦略を立てる際に活用する分析方法)の日本での第一人者。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、テレビ・ラジオ番組の監修などエンターテインメント業界でも活躍。JAPAN MENSAの会員。一般社団法人日本セイバーメトリクス協会会長。

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