【高校野球】徹底した外角攻めで国学院久我山が初勝利 データで楽しむ夏の甲子園【3日目・第3、4試合】

第101回全国高等学校野球選手権、3日目の結果一覧

初夏通じて甲子園初勝利を挙げた国学院久我山

 甲子園での優勝経験のあるチームが出場した夏の全国高等学校野球選手権大会第3日目の第3、4試合。セイバーメトリクスの指標で各校の闘いぶりを振り返ってみます。

 指標の説明は以下の通りとなっています。

OPS 出塁率+長打率 1を超えると優れている
wOBA 各プレーの得点価値を累積して算出した打撃指標
O-swing% ボールゾーンに来た球をスイングした割合
Z-swing% ストライクゾーンに来た球をスイングした割合
Swing% スイングした割合
O-contact% ボールゾーンに来た球をスイングした際にバットにボールが当たった割合
Z-contact% ストライクゾーンに来た球をスイングした際にバットにボールが当たった割合
Contact% スイングした際にバットにボールが当たった割合
Zone% ストライクゾーンを球が通過した割合
SwStr% 空振り率
WHIP 1イニングあたりに許したランナーの数
P/IP 1イニングあたりに投球した球の数
GB/FB フライに対するゴロの割合

○国学院久我山 7-5 前橋育英

【国学院久我山】
打率.366 OPS 0.790 wOBA 0.426
O-swing% 38.8% Z-swing% 59.4% Swing% 48.3%
O-contact% 54.8% Z-contact% 90.2% Contact% 75.0%
Zone% 46.3% SwStr% 12.1%

【前橋育英】
打率.250 OPS.669 wOBA.329
O-swing% 22.9% Z-swing% 61.6% Swing% 42.7%
O-contact% 68.8% Z-contact% 97.8% Contact% 90.2%
Zone% 51.0% SwStr% 4.2%

国学院久我山・高下耀介投手の各指標

9イニング 打者数40 投球数143
WHIP1.33 P/IP15.89 GB/FB0.62
ストレート49.0% スライダー46.9%
Zone% 51.0% 空振り率4.2%

前橋育英・梶塚彪雅投手の各指標

7イニング 打者数37 投球数121
WHIP2.14 P/IP17.29 GB/FB1.14
ストレート31.4% スライダー33.9% カットボール20.7%
Zone% 48.8% 空振り率11.6%

 2013年夏の甲子園で優勝経験のある前橋育英と、春夏通じて5回甲子園に出場した経験はあるもののまだ勝利は経験したことのなかった国学院久我山の対戦となった3日目第3試合。先手を取ったのは前橋育英でしたが、試合の中盤から徐々に国学院久我山の打者が真ん中に集まるようになったスライダーやチェンジアップといった変化球を捉えるようになります。7回には2番打者から早いカウントで積極的にはじき返す4連打で逆転に成功します。

 打撃指標を見比べてみると、国学院久我山 O-swing% 38.8% Contact% 75.0% SwStr% 12.1%で前橋育英はO-swing% 22.9% Contact% 90.2% SwStr% 4.2%となり、ボール球に手を出す確率や空振り率が多い国学院久我山の方が荒いバッティングをしているように感じます。

 確かに試合序盤は梶塚投手の多彩な球種に的を絞れず戸惑っていた感はありました。しかし6回から7回にかけての集中打は見事でした。国学院久我山の高下投手はストレート、スライダーを主体としたピッチングで、空振り率もそれほど高くはありません。この試合で高下投手は徹底的に外角を攻めてきました。全投球数143のうち外角への投球は79.7%。実に8割もの球を外角に集めて、前橋育英打線を翻弄し、甲子園初勝利に貢献したのです。

敦賀気比の笠島は直球主体の投球で3安打完投の好ピッチング

○敦賀気比 5-1 富島

【敦賀気比】
打率.273 OPS.627 wOBA 0.311
O-swing% 30.2% Z-swing% 71.0% Swing% 53.3%
O-contact% 56.3% Z-contact% 89.8% Contact% 81.5%
Zone% 56.6% SwStr% 9.8%

【富島】
打率.107 OPS.340 wOBA.194
O-swing% 32.5% Z-swing% 74.1% Swing% 57.1%
O-contact% 30.8% Z-contact% 86.0% Contact% 73.2%
Zone% 58.6% SwStr% 16.5%

敦賀気比・笠島尚樹投手の各指標

9イニング 打者数30 投球数100
WHIP 0.56 P/IP 11.11 GB/FB 6.00
ストレート69.0% スライダー25.0%
Zone% 58.8% 空振り率16.5%

富島・黒木拓馬投手の各指標

7回1/3イニング 打者数30 投球数97
WHIP1.09 P/IP13.23 GB/FB2.38
ストレート47.4% スライダー42.3%
Zone% 60.8% 空振り率9.3%

 敦賀気比、富島の両先発投手とも6割のストライク率という小気味の良いピッチングで試合展開も早く、1時間49分で試合が終わりました。敦賀気比の笠島投手は7割をストレートで組み立て、低めに丁寧に投じていました。そのためフライに対するゴロの割合を示すGB/FBは6.00とフライの6倍のゴロで仕留めていました。またスライダーでは25%もの空振りを奪取し、結局散発の3安打、WHIP0.56と完璧に富島打線を封じ込めました。

 富島も少ないチャンスの中、足を絡めた攻撃で1点をもぎ取りましたが、如何せん出塁率.161ではこれ以上の手の打ちようがありませんでした。なお、敦賀気比の四球は1。これはO-swing% 30.2%に起因しているようです。次戦ではボール球の見極めができ四球が増えるかどうかに注目です。鳥越規央 プロフィール
統計学者/江戸川大学客員教授
「セイバーメトリクス」(※野球等において、選手データを統計学的見地から客観的に分析し、評価や戦略を立てる際に活用する分析方法)の日本での第一人者。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、テレビ・ラジオ番組の監修などエンターテインメント業界でも活躍。JAPAN MENSAの会員。一般社団法人日本セイバーメトリクス協会会長。

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