「ナガサキ」邦訳版完成 米作家・サザードさんの著書 原爆の悲劇「全ての人が理解すべき」

米国で「ナガサキ」を発刊後、長崎市役所で記者会見するスーザン・サザードさん=2015年11月

 米国のノンフィクション作家スーザン・サザードさん(62)が長崎原爆を描いた書籍を日本語に訳した「ナガサキ 核戦争後の人生」(宇治川康江訳、みすず書房)が刊行された。サザードさんは「恐ろしい悲劇を繰り返さないため、全ての人が理解すべき重要な物語だと確信している」と話している。
 サザードさんは1986年、日本原水爆被害者団体協議会(被団協)の活動で訪米した被爆者、谷口稜曄(すみてる)さん(2017年に88歳で死去)の通訳を務めた。その際、自身も含め被爆の実相を知らない人が多いと気付いたのが「ナガサキ」執筆のきっかけだった。
 サザードさんは03~11年を中心に、いずれも長崎で被爆して語り部として活動した谷口さん、吉田勝二さん(10年に78歳で死去)、堂尾みね子さん(07年に77歳で死去)、和田耕一さん(92)、永野悦子さん(90)に取材を重ねた。関係者や多くの資料にも当たった。
 「ナガサキ」は豊富な写真を交え、年代別・テーマ別に編集した。原爆による壊滅的被害や救護活動のほか、被爆者の肉体的・精神的な苦痛、日米両国での情報統制、「調査すれども治療せず」と批判された米原爆傷害調査委員会(ABCC)、反核平和運動など、長崎の戦中戦後を客観的な視点で綿密に描いている。
 本に登場する5人のうち3人が既に他界した。生存している永野さんは原爆投下前、鹿児島に疎開していた妹と弟を自身の寂しさから無理やり長崎に連れ帰った結果、2人とも原爆で失った。今も「私のせい」と悔やみ続けている。高齢で語り部活動をできなくなったが、「戦争は悲しい。戦争反対の声を上げ続けてほしい」と次世代に願いを託す。
 「ナガサキ」は15年に米国で出版され、米主要紙は好意的な書評を掲載した。一方でサザードさんは時折、原爆投下の正当性を訴える退役軍人から抗議のメールを受けるという。「抗議の内容から彼らが本を読んでいないのは明らか。まだやるべきことは多い」と語る。
 サザードさんは「長崎には被爆者の物語を語り続け、核廃絶を訴える独自性と機会がある。多くの人に刺激を受けた」と振り返る。15年に長崎市の「長崎平和特派員」に認定されており、今後も平和のために力を尽くす考えだ。
 464ページ。価格は4104円。主要書店で販売中。

「ナガサキ」の邦訳版を手に「皆さんに読んでいただけたらうれしい」と話す永野悦子さん=諫早市内

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