“Wシリーズ”で注目を集める女性版フェルナンド・アロンソ【スペイン人ライターのモータースポーツコラム】

 スペイン在住のフリーライター、アレックス・ガルシアのモータースポーツコラム。今回は女性ドライバーたちが参戦する『Wシリーズ』で活躍するひとりのスペイン人女性ドライバー“マルタ・ガルシア”について語る。

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 “マルタ・ガルシア”という名前について言及したら、私が自分の姉妹かいとこのことを意味していると思う人もいるかもしれない。しかしこの場合はそうではない。“ガルシア”は実は日本の“佐藤”のようにスペインでは最も多い苗字なのだ。

 そういうわけでマルタ・ガルシアは私の家族の一員というわけではなく、最近の実績で多くの関係者たちを大きく驚かせている若きスペイン人ドライバーなのだ。今回、紹介するガルシアは世界でも有力な女性レーシングドライバーのひとりだ。彼女は今年初めて開催された女性ドライバーの限定の新たなフォーミュラカー・レースである『Wシリーズ』のノリスリンク・ラウンドで優勝している。

 ガルシアは多くの人々に知られてはいないものの、確固たる実力の持ち主であり、印象深いトラックレコードを保持している。2015年、当時15歳だったガルシアは、世界でも最も歴史あるイタリアのカートレースであるトロフェオ・デル・インダストリエで優勝した。

 このレースは長年にわたり、ルイス・ハミルトン、ニコ・ロズベルグ、セバスチャン・ベッテルといったドライバーたちが力量を試してきたレースだ。そのレースで優勝したことによってガルシアは突如として、いくつかのF1チームからの注目を集めた。彼らはガルシアをF1昇格に向けて育成しようと考えたのだ。

Wシリーズに参戦しているマルタ・ガルシア

 2016年、ガルシアはスペインF4選手権のいくつかのラウンドに参戦し、5戦で5位につけ、それにより73ポイントを獲得した。トラックレコードでも十分素晴らしい速さを見せ、最終的に2017年にルノーが他チームを抑えてガルシアを獲得。ルノー・スポール・アカデミーに迎えることになった。

 だが、そこから状況は難しいものになっていった。ガルシアは非常に有力なチームであるMPモータースポーツに所属したので、2017年のスペインF4で表彰台を獲得できるはずだったが、十分な英語が話せず、シーズンは厳しいものになったのだ。

 それでもガルシアは、強力なライバル相手に最高で5位の結果を出すことができ、ランキング9位でシリーズを終えた。ガルシアはまた、2017年のSMP F4選手権に1度限りで参戦し、着実に6位という順位につけることができた。しかし「優れてはいるが、素晴らしいというほどではない」というのがルノーの評価だった。

 結局、彼女は2018年のルノー・スポール・アカデミーから放出され、丸1年間レースに出ることができず、その間は心身のトレーニングを行なっていた。ガルシアはカートレースに戻ることを厭わず、またチャンスが来た時に備えるために英語の勉強にも取り組んだ。そして2018年末に発表された『Wシリーズ』で、レースに戻るチャンスが到来したのだ。

 ガルシアは選抜されたWシリーズの出走者のなかでも最年少のドライバーだったが、これまでのトレーニングの成果もあり、テストセッションでの彼女の結果はパドックでも話題になった。多くの人は、これは思いがけない幸運だと考えるかもしれないが、スペインの画家パブロ・ピカソは次のように言っている。「インスピレーションは存在するが、それがひらめいた時のために仕事を続けなければならない」と。

 レースにおいては、幸運が訪れることもあるかもしれないが、ドライバーに準備ができていなければ、大きなチャンスを活用することはできない。

 ガルシアは十分に準備ができていたし、ホッケンハイムでのWシリーズ初戦でそのことを証明した。ガルシアは見事な走りでより経験豊富なライバルたちと戦い3位でフィニッシュしたのだ。

 その後、ガルシアは第2戦ベルギー(ゾルダー)で4位、第3戦イタリア(ミサノ)で6位につけた。表彰台は1度だけだったが、ガルシアの一貫性とミスのなさはそれを補うものだった。だが最高の結果が出るのはそれからのことだった。ガルシアはとうとう第4戦ドイツ(ノリスリンク)でシーズンにおける最大の圧倒的勝利を飾り、実力を証明した。ガルシアはポールポジションを獲得し、レース全体をリードした。

 この勝利により、ガルシアはタイトル争いにおいて三つ巴の戦いをすることになる。ジェイミー・チャドウィックとベイスク・フィッセールが豊富な経験のおかげで、上位でフィニッシュするだろうが、マルタ・ガルシアが驚きの結果を出す可能性はまだある。

 ガルシアはこれまでもすでに予想外の結果を出してきているが、フェルナンド・アロンソが、2000年にF3000に参戦していた際のスパ・フランコルシャンでの勝利を思い出しす人もいるかもしれない。2000年のアロンソのシーズンは全体的に思わしくなかったが、その日物事は彼に有利な方へ働き、彼は自分の世界へ入っていったのだ。

 Wシリーズの前提について賛成であろうがそうでなかろうが、トップでフィニッシュしたドライバーがチームやスポンサーからある程度の注目を集めることは明白だ。そして注目を集めれば彼女たちは、さらにキャリアを継続するための十分な資金を得ることもできる。

 近い将来に女性F1ドライバーが登場するには、これで十分なのだろうか?現在のところ、ジェイミー・チャドウィックはすでにウイリアムズと関わりを持っている。そして今シーズン末にさらに女性ドライバーたちが同様の状況になっても私は驚かないだろう。

 ひとつアドバイスがある。マルタ・ガルシアに注目しておくことだ。彼女はあなたを驚かせるかもしれない……。

Wシリーズ 第4戦ドイツ(ノリスリンク)

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