【えほんのとびら】 No.196「森のおくから」

ゴブリン書房
作:レベッカ・ボンド
訳:もりうち すみこ

 これは、作者のおじいさんが子どもの頃に体験したおはなしです。

 アントニオの家は森の中の湖のほとりで、木を切り出したり猟をしたりする人が泊まるホテルを営んでいました。近くに同年代の子がいないアントニオは時々動物を探しにひとりで森へ行きましたが、動物の姿を目にすることはありませんでした。彼らは、猟師がやってこない森の奥深くに住んでいたのです。

 アントニオが5歳の夏、日照り続きでかわいた森を山火事がおそいました。炎は風にあおられ一気に広がり、逃げる場所は湖しかありません。

 人々が湖に逃げこみ茫然と立ちつくしていたとき、森の奥から動物たちが出てきました。オオカミ、シカ、ウサギ、キツネ…。彼らも湖に入り、人間とからだが触れ合うほどのところで静かに立っています。

 やがて火がおさまると、動物も人も、またそれぞれの居場所へと戻っていきました。

 人間と動物のへだたりが取り払われたこの不思議な体験は、山火事の恐怖以上に深く少年の心に刻みこまれたのでした。

(ぶどうの木代表・中村佳恵)

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