KONTAと杏子のWボーカル、バービーボーイズのスリリングな駆け引きロック 1984年 9月21日 バービーボーイズのデビューシングル「暗闇でDANCE」がリリースされた日

憧れの人は誰かと訊かれたら、私はいつも「バービーの杏子さん」と答えてきた。かっこよくて可愛くて、その上とても優しい。デビューを勝ち取ったソニー SD オーディションの授賞式で一言求められて「おしっこがしたい」と言ったエピソードなど最高だ。

バービーボーイズはもともと男所帯だったが、アマチュア時代に対バンで歌っていた杏子(当時は商社のOL)の声とパフォーマンスにイマサが惚れこんで加入させた。そのとき KONTA は「俺はもうサックス専門になるのか」とボーカルの座を諦めかけたという。

デビューは84年。「暗闇でDANCE」のクリップがフランスのビデオフェスでグランプリを獲って話題になった。両目をカッと見開いて歌う汗っかきの KONTA は典型的な “男の子”。フレアスカートとストールをくるくるひるがえすハスキーボイスの杏子は身につけているネックレスやブレスレットを毎回ひとつ客席に投げた。お互い挑むように歌いながら、でもステージで目を合わせることは決してない。

日本一似顔絵が描きやすいギタリストと言われたイマサが書く詞曲の多くは男と女の痴話げんかや感情のもつれ、スリリングな押し引き。「チャンス到来」や「負けるもんか」や「目を閉じておいでよ」に胸をときめかせた青少年は多いと思う。自分では1曲しかボーカルをとらなかったイマサは役者に台詞を当て書きする “座付き作家” のように評されることもあり、それをとても嫌っていた。

88年には東京ドームまで上り詰めたが、91年にはほぼ活動休止状態になり、92年1月に渋谷公会堂で解散。湿っぽさのない、いつも通りのバービーのライブだったと記憶している。解散の理由について本人たちからの公式コメントはなかったはずだ。

数年前、アラフィフをターゲットにしたミニドラマ集のようなものをぼんやりと見ていたら、KONTA が出ていた。かつてはトレンディ俳優の仲間入りもしていた、その髪色はグレーだった。10年の再結成ツアー後 KONTA だけは姿を見る機会がなかったので嬉しかった。深夜のレッドシューズでデロデロに酔った KONTA の「これは俺が喋ってるんじゃない。俺の中の酒が喋ってるんだ」という名言を、私は今もときどき拝借している。

※2016年11月5日に掲載された記事をアップデート

カタリベ: 佐々木美夏

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