夏のにおい

 この季節、自宅近くを歩いていたら、道の脇に生い茂った草からふっと「夏のにおい」がしてくる。東京だったら道で草のにおいがすることはまずない、と聞いたことがある。東京住まいの人が地方に帰省したようなときは、草のにおいは懐かしさを伴うのかもしれない▲夏草が強い日差しを受け、熱気を発するのを「草いきれ」と言うらしい。肌には草から放たれる暑気、目には深い緑色と、夏草は人の感覚をさまざまに刺激するが、強いにおいもまた、夏の盛りを思わせる▲映像として頭に残り、音や声として耳に残る記憶もあれば、「においの記憶」というのもある。この時季だと、海の潮風だったり、蚊取り線香だったり、夕立の後の空気だったり、夏のにおいは人それぞれあるに違いない▲きのうから3連休に入り、盆休みにつなげて9連休という人もいる。きょうの「山の日」にちなんで山に親しむ、海水浴を楽しむ、帰省する、旅行する。行く先々で、いつもと違った夏のにおいが漂うだろう▲そうは言っても連日のこの猛暑にお手上げの人も少なくない。お出掛けの際、熱中症という大敵に用心を重ねる頃でもある▲外出を控えるならば、記憶の中でにおいの旅もいいかもしれない。夏草であれ、潮風であれ、昔日の思い出はどこか甘やかな香りもする。(徹)

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