日韓関係、さらなる悪化は不可避

安倍政権は対韓政策練り直しへ

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ソウルで開かれた安倍首相や日本の輸出管理強化を糾弾する集会で抗議する市民ら=8月10日(共同)

 日韓関係は「破局」に向かうのだろうか。日本による輸出管理強化を巡り、韓国の文在寅大統領は「経済報復に相応の措置を取る」と徹底抗日を宣言。安倍晋三首相は元徴用工訴訟問題で国際法に基づく対応を迫るなど、強硬姿勢を崩さない。両国関係のこれ以上の悪化を食い止めようと、政治レベルを含めて水面下で解決策を模索する動きもあるが、主張の隔たりはあまりに大きい。安倍政権は長期戦を覚悟して対韓政策の練り直しに着手した。(共同通信=内田恭司)

 ▽「高麗連邦」で日本に勝つ

 「南北間の経済協力で平和経済が実現すれば、一気に日本の優位に追いつける」。日本が安全保障上の輸出管理で優遇措置を取る「ホワイト国」から韓国を除外する決定をしてから3日後の5日、文大統領は青瓦台での実務会議で、南北連携の推進を訴えた。この間「加害者の日本が大声を上げている」「今後起こる事態の全責任は日本にある」などの発言を連発。この効果なのか、日本製品の不買運動や反日デモが各地で広がってきた。

 日本側の受け止めは冷静だ。政府高官は苦笑しながら「文在寅が本性を現してきた。核を持つ北朝鮮と『高麗連邦』をつくり、日本に勝つ夢を公然と言い始めた。李舜臣か安重根にでもなったつもりなのだろう」と話す。安倍首相は6日の広島市での記者会見で、文大統領の挑発には乗らずに「まずは約束をきちんと守ってほしい」と、韓国に日韓請求権協定に基づいた対応を取るよう改めて要求した。

 だが、日本が輸出管理を強化した7月4日から1か月以上が過ぎ、両国経済に影響が出始めたのに加え、安保面での懸念も顕在化してきた。北朝鮮が25日から8月10日までに、計5回にわたり飛翔体を日本海に発射するなど、挑発行為を強めてきたのだ。

 飛翔体は、ロシア製短距離弾道ミサイル「イスカンデル」を改良した新型を含んでいるとされ、低高度軌道を飛行して終盤で上昇するなど、迎撃回避の性能を備える。地理的に近い韓国のレーダー情報が重要となるが、25日は終盤の飛行を十分に探知できなかった。日米韓で情報を補完して着弾点を割り出したが、3カ国の連携に不安を残した。

 韓国が日本との軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄を示唆しているのも懸念材料だ。毎年の自動延長で、破棄する場合は今月24日までに通知する。日本は更新する意向だが、韓国は明言していない。業を煮やしたのか、トランプ米大統領は9日「日韓は同盟国なのに、米国を難しい立場に追い込んでいる」と早期の関係改善を求めた。

北朝鮮が7月25日に発射した新型短距離弾道ミサイルとされる兵器(朝鮮中央通信=共同)

 ▽根拠はサンフランシスコ条約

 こうした中、日本は8日、韓国への輸出手続きを厳しくした半導体材料3品目のうち、レジストの輸出を許可。前日のホワイト国除外の政令公布では、個別許可の品目を追加しなかった。韓国内からは「日本との経済戦争に勝利した」と喜ぶ声も出た。

 日本政府関係者は、輸出許可について「中国、台湾向けは4~6週間で出る。韓国向けは5週間で出たにすぎない」と、単に事務手続きを進めただけだと強調する。だが、深謀遠慮はあるにせよ、日本が融和姿勢を示し、韓国に対応を促したのは間違いない。実際、韓国側の反応は「日本は方針転換をしないものの、韓国の国民感情を一時的になだめ、譲歩を引き出そうとしてきた」(韓国政府関係者)との受け止めが大半だ。

 対話の糸口がほのかに見えたとはいえ、焦点となるのは、15日の「光復節」における文大統領の演説内容と、韓国が24日までに情報協定の継続を決めるかどうかだ。大統領が国民の反日感情をさらに煽り、協定も破棄するなら、日韓関係のさらなる悪化は確実だが、事態打開の意思を示し、協定の延長を決めれば、日韓は対話に入る可能性がある。

 しかし、先行きは見通せない。元徴用工訴訟と輸出管理強化の二つの問題を巡り、最終的には首脳会談で決着を付けることになるが、会談時期は全く見えない。そもそも、双方の立場に違いがありすぎる。元徴用工訴訟を巡り「1965年の日韓請求権協定により解決済み」だとする日本の主張は、51年のサンフランシスコ平和条約にたどり着く。

 協定は、第2次大戦後の国際秩序を規定した同条約を根拠としており、この枠組みに異を唱えれば、他の国々にも波及するというのが日本政府の理解だ。この件で政府は、条約起草を主導した米国や、日本と同じ構図を抱える英国などの理解を取り付けている。日本の強気の背景だ。韓国にしてみれば、戦後処理の蒸し返しとも受け取られかねず、だからこそ歴代の政権は日本の主張に、基本的に同意してきた。

 だが文在寅政権は、協定は当時の軍事政権が、日本との圧倒的な国力差の下で結ばされた「不平等条約」で、発展を遂げた今の韓国が縛られるのはおかしいとの立場を取る。さらには、積年の人種差別と植民地支配の不当性を断罪し、参加国に人権回復への行動を促した「ダーバン宣言」の流れにも乗ろうとしている。

 ダーバン宣言は2001年、南アフリカの同地で開かれた国連主催の国際会議で採択された。関係国間の激しい対立で曲折を経たものの、示された成果は「人権問題の一つの到達点で、21世紀の新たな潮流」(外務省幹部)になろうとしている。

 国際司法裁判所(ICJ)への提訴について、実務を担う外務省当局は、実際のところは「慎重」(同)なのだという。こうした国際潮流の下では「日本の植民地支配は不法な侵略の結果で、徴用による強制労働は人道への罪だ」とする韓国の歴史観に一定の理解が示され、日本に不利な判決が出る可能性があるからだ。

 ▽サムスンには安定供給

 実は7月中旬以降、政治レベルを含めた水面下の対話で、元徴用工訴訟問題の打開策として「謝罪すれば日本側に補償は求めない」との線が浮上した。請求権問題は解決済みとする日本の立場と、徴用の不当性を認めさせたい韓国の立場とを折衷した案だ。被告と原告が和解すれば、日本企業側が謝罪し、被害者側は日本企業からの補償を基本的に放棄する。

 そもそも原告側は、徴用被害の事実認定と誠実な謝罪を第一に求めている。韓国政府が6月に示し、日本政府が即刻拒否した「日韓双方の企業が共同基金を設立して補償する」との提案も、ベースは謝罪に置いており「折衷案」はその延長線上とも言える。韓国の国会議員から内容を聞いた日本の国会議員は「悪くない」と受け止めたという。

 だが「二度と謝罪しない」との姿勢を貫く安倍首相は、被告企業にも強く同調を求めている。文在寅政権が被害者側に賠償放棄を促すとも思えない。このため、案は首相官邸に実務レベルでは報告されたものの、非現実的だとして検討されずに止まっているようだ。

記者会見する安倍首相=8月6日、広島市

 結局、対話に入っても打開策を見出せないまま、長期戦になる可能性が高い。日本側は、これまでの対応から透けて見えるように、既に今後の展開を見越して対韓政策の練り直しにも着手している。①韓国はホワイト国に再指定しない②韓国大法院が資産売却手続きに入れば輸出管理強化の品目を追加する③サムスンには安定的に製品を供給するが、決して流用させない④日米韓3カ国の対北朝鮮連携は強化する―。

 文在寅政権とは関係をリセットする一方で、政権と距離を置くサムスンは日本側に引きつけ、日本の部品・素材産業のシェアを守る。日米韓の安保協力強化で南北連携を断ち、究極的には核武装した「高麗連邦」の実現を阻止する。こうした対韓政策を基本に、文政権の出方を見極めていくのではないだろうか。