徴用工、沖縄の基地、軍事費…

憲法に違背し続ける政権

©株式会社全国新聞ネット

佐々木央

47NEWS編集部、共同通信編集委員

佐々木央

47NEWS編集部、共同通信編集委員

 本州の北辺・下北半島で育ちました。子どもや若者のこと、生きもの(動物園・水族館)について長く取材してきました。なので、軽視されたり無視されたりしがちな存在、人権のないものへの共感も少しはあります。 

佐々木央の記事一覧を見る
原爆の日の8月6日、広島市で記者会見する安倍首相

 ことしも暑い夏がめぐってきた。74年前の夏、想像の中のオキナワ・ヒロシマ・ナガサキはあまりにも悲惨だ。

 国内でも戦地でも、人の命は軽かった。戦争は人を人でないものとして扱い、人を人でないものに追い込んだ。

 いったい誰がこのような事態を招来したのか。過去に対する追及を先鋭化させたい気持ちに駆られるが、ここでは現在形の疑問に向き合いたい。

 戦後日本はどこを原点として、いまどんな座標にいるのか。それは肯定できるのか。

 妥協や揺り戻しはあったにせよ、出発点の一つは1946年11月に公布された現行憲法であろう。日本国憲法の戦争に対する考え方は、いま争点になっている9条よりも、前文によくあらわれている。 

 前文は最初に国民主権を宣言する。次の段落がいわゆる恒久平和主義だ。

 「日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」

 平和主義は各国の人々への信頼に基礎を置く。誰も戦争なんかしたくない。世界の人々も平和を愛し、公正と信義を大切にしたいと思っている。それを信じようと。

 文中に「人間相互の関係を支配する崇高な理想」とある。崇高な理想とはなにか。あとに続く文章が、それを明らかにする。

 「われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思う。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」

 専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠になくすこと。全世界の人々が一人残らず、恐怖と欠乏から解き放たれ、平和のうちに生きること。それが崇高な理想だ。

 その理想が国家間の原理としてでなく「人間相互の関係」として語られていることに、注目したい。公的な関係だけでなく、職場や学校や家庭を含めたあらゆるレベルで、それは求められる。ハラスメントや虐待、体罰、いじめといった侵害行為はもちろん、夫が妻を、親が子を管理したり支配したりすることも、憲法の掲げる理想に反するのだ。

 憲法前文の次の段落は、国際関係の原則をこう宣言する。

 「いずれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならない」「この法則に従うことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立とうとする各国の責務である」

 戦後の日本が目指したのは、人と人、国と国が平等に、信頼に基づいて構築される社会だった。力によって保たれる平和や均衡は、恐怖や専制・圧迫を伴う。それはまた戦争への道に続いている。そのことを当時の日本人は、悲痛な経験とともに学んでいた。

 いま韓国との間で起きていることは、こうした憲法の理想や国際関係の基本に反していると思う。

 安倍晋三首相は原爆忌の6日、広島市で記者会見し、韓国との関係について「(元徴用工問題で)日韓請求権協定に違反する行為を韓国が一方的に行い、国際条約を破っている。約束を、まずはきちんと守ってほしい」と要求したという。

 徴用工問題は1965年の日韓請求権協定によって解決済みというのが、日本政府の立場だ。そこで韓国政府も同じ考え方に立って、元徴用工の人たちの個人としての請求権を否定するよう求めている。ここに政府と市民の関係についての、日本政府の考え方がよく示されている。

 それを確認するために、米軍・普天間飛行場の辺野古移転にかかわる日本政府の考え方と行動を参照したい。

 辺野古移転を基本的に規定しているのは、米国からの用地・施設の提供要請に対して日本側に拒否権のない日米地位協定である。そのうえ、辺野古移転は既に米国に約束してしまっている。だから沖縄県民や、県民に共感する沖縄以外の人がどんなに反対しても、やり遂げなければならない。全国から警察力を動員し、座り込みをする人たちを強制排除してでも。

 このようなやり方を正当とする今の日本政府にとって、国家間の約束を優先しない韓国政府はおかしいということになる。中国や朝鮮半島の人々を連れてきて、非人間的で劣悪な、ほとんど生存ぎりぎりの条件で働かせたケースもあったことへの、真摯な反省や謝罪を示すことなく、国家間の約束の履行だけを要求する。

 しかし、このような考え方と行動は、あらゆる関係において専制や圧迫があってはならないとする憲法の思想に違背するだろう。

 憲法が掲げる理想を「現実を見ない空論」などと批判するのは自由だ。だが、厳然としてそのような憲法があり、99条が閣僚や議員を含むすべての公務員に憲法遵守義務を課している以上、政権がそれを公然と否定する行動を選ぶことは許されないはずだ。

 日韓関係や沖縄の基地問題だけではない。軍事費を止めどなく膨張させ、5兆円を突破していることも、力による安全保障を否定する憲法理念を逸脱している。

 この夏、戦争に関わる一連の行事を、季節の儀礼としてやり過ごさず、戦後の原点を踏まえて、現在を直視する機会にしたい。(47ニュース編集部・共同通信編集委員佐々木央)