ボルボ V60 パフォーマンスアップグレードソフトウェア試乗|走りの質感を高めるECUプログラム

ボルボ V60 T5 ポールスター パフォーマンス アップグレード 試乗

目的地にいかに早く快適で安全に移動できるか

自動車メーカーは、標準モデルをさらに高性能化したモデルを送り出す部門を持っているが、ボルボの場合それはポールスターを意味する。

ボルボV60/S60ポールスター(従来モデルベースのチューンドコンプリートカー)の国際試乗会で会ったポールスター社のエンジニアと話をすると、彼らはレース活動でポールスターレーシング(現在のシアン・レーシング)に帯同するため、ヨーロッパ中をクルマで移動していると語った。

さらに彼らが言ったひと言が”ふるっている”。いわく、V60/S60ポールスターのコンセプトは「自分たちが目的地までいかに速く快適で安全に移動できるのか、そこをメインに開発しました」。”要はバランス”と語ったそこに、チューンの難しさが見え隠れするのだが、筆者は自動車ライターの職についた始まりがクルマをチューニングする媒体だったため、チューンの難しさを嫌というほど知っている。

だから彼らから「要はバランス」・・のひと言を聞いた時に、あ、このヒト達はチューンとは何たるかを見抜いているな、と感じた。

単純に最高性能だけを高めるだけではないECUプログラム

そのコンセプトを一般顧客向けに、さらに乗り味なども洗練させたモデルが、コンプリートカーのポールスターであり、今日の”ポールスター・エンジニアード”に受け継がれている。そして走行特性をより俊敏に変化させ、スポーツ性をさらに強調したいと言う要望に応えた商品のひとつが、「ポールスター・パフォーマンス・ソフトウエア」である。

これはエンジンの頭脳、ECUを変更する事による出力アップと、アクセル操作によるレスポンス、トランスミッションのシフトスケジュールの変更という走りにまつわる一連の制御を、もうワンステップ上に引き上げたモノ。AWDモデルでは前後輪の駆動配分までも変化させて、操縦特性をよりスポーティーな方向に向ける。

出力アップと言っても、それは単純に最高性能を高めるものではない。低速から中速域、つまり市街地や郊外路など、日常でもっとも多く使う領域での扱いやすさを重視しつつ、その幅をさらに上にも広げている。

もちろん、速さや俊敏性につながるものなので、ユーザーどなたにもお薦めできる、という類のものではない。スポーツドライビングを好み、アスリート感覚を持つユーザーにこそ価値が見出せるだろうと思っていた。

ボルボ V60 T5 ポールスター パフォーマンス アップグレード 試乗

常用域が圧倒的に引き上げられる

試乗車はV60 T5。標準で254hp/350Nmのパワーとトルクなのに対して、ポールスター・パフォーマンス・ソフトウエアをインストールすると261hp/400Nmに、パワー的にはわずかだがトルクは大幅に引き上げられる。

クルマをゼロから発進、加速させる力がトルクであるから、50Nmものトルク増大はクルマの印象を劇的に変化させる。さらに言えばエンジン回転をもっとも良く使う2000~4500rpmの常用域でも、ポールスター・パフォーマンス・ソフトウエアはエンジンのフィーリングに大きな変化をもたらす。

この常用回転域でエンジン出力を測ると標準は174hp/350Nmなのに対してポールスター・パフォーマンス・ソフトウエアは200hp/400Nmと、標準を上回る最大トルクをすでにこの回転域で発生している。

アクセルのひと踏みで、明確に違いが判るのはこのためである。

アクセル操作に対して瞬時のレスポンスに

ボルボ ポールスターエンジニアード

ボルボは全モデル、エンジンスタートと同時に走行モードはComfortが選ばれる。ポールスター・パフォーマンス・ソフトウエアの威力を知るには、Eco、Individual、Polestar Engineered、そしてAWDモデルにはOff Roadの各種選択肢があるなかからPolestar Engineeredを選べばいい。同時にメーター内にもPOLESTARと表示される。

そこをクリックするとアイドリングが1000rpmに高まり、アクセルを踏み込むと即座にエンジンは躍動感に溢れて、駆動力を高め身体をシートバックに押し付ける。

アクセル操作に対して一分の遅れも無いレスポンスから全ての動きが引き締まった俊敏性に変わり、そのままアクセルを踏み込むと6500rpmの回転リミットまで豪快に伸びて行く。日本の速度規制では、あっと言う間に上限に達してしまう。

それではポールスター・パフォーマンス・ソフトウエアをインストールする意味がないではないか?! と思うのも道理。

しかしそこに到達するまでの動力性能の切れ味の鋭さ、アクセルを踏む右足の動きに直結した特性がスポーツ派の心をくすぐるハズ。

ボルボ ポールスターエンジニアード

4輪駆動モデルではより積極的な駆動配分に

AWDはどう変化するのか、と言う事でV60CC(クロスカントリー)T5に乗り換えてみる。Polestar Engineeredを選択した時には前後の駆動配分自体を変化させる。例えば左旋回が長く続くコーナーで、標準車とポールスター・パフォーマンス・ソフトウエアをインストールした車両を比較すると、後者は旋回途中から鼻先が積極的に左、左、へと向こうとする事に標準車との明確な違いがある。

誰にでもオススメできるパフォーマンスソフトウェア

ポールスター・パフォーマンス・ソフトウエアは、言わばコンピュータチューンなのだが、どこをどうした、とは言わないのが欧州(北欧)メーカーの常。

対象となるモデルは、ガソリンのT4、T5、T6(PHEVは未対応)、T8とディーゼルのD4、D5モデルと多岐にわたる。

お薦めできるのはスポーツ派に限る、と言ったが、ヒトにとって何が心地いいのかと言えば、操作に対して忠実に応答してくれるか、否か。画面にタッチするか、スイッチ操作ひとつでEcoからPolestar Engineeredまで切り替えが効く事で、環境を考えたお行儀の良い走行から、過激な走行まで自在な選択肢が可能と言う意味では、どなたにもお薦めできる、と考えを改めた。

[筆者:桂 伸一/撮影:渡 健介]

© 株式会社MOTA