交番漫画の新星現る 元女性警察官が描く「ハコヅメ」

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 生活や人生のさまざまな局面に関わる警察は、ミステリー小説やテレビドラマなどエンターテインメントでたびたび扱われてきた。漫画で描かれた交番の警察官といえば「こちら葛飾区亀有公園前派出所」の主人公・両さんが代表格だろう。彼は多趣味で破天荒な「下町人情おまわりさん」だった。

 連載を終えた「こち亀」不在の間隙を縫って現れた「交番漫画」の新星を紹介したい。タイトルは「ハコヅメ」。副題「交番女子の逆襲」が示すように主人公は女性警察官で、作者の泰三子さんは元女性警官だ。

 最初に表紙を見たとき「萌え系」の一派かと思ったが、全然違った。低調で心躍らない日常と、うんざりするような仕事や研修、拘束時間がひたすら長い職場環境と、あんまりな「ブラックぶり」だ。

 「安定収入ありゃなんでもいいな」と公務員試験を片っ端から受けて、警察にしか採用されなかった川合麻依。配属先の交番でペアとなったのは、後輩へのパワハラによって左遷されてきたという巡査部長・藤聖子だった。藤は美人で仕事ができるが横暴で「ゴリラ」と見なされている(そして時々顔だけがゴリラに変わる)。官舎では隣の部屋なので、川合の部屋に入り浸る。

 「安定してるの収入だけじゃないっすか」「体調も精神も不安定になる一方なんですけど」とパトカーの車中で愚痴を漏らす川合。藤は「大丈夫」「そのための福利厚生だから」「何かあっても遺族は大切にしてもらえるよ」。川合の応答は「生きてる職員は大切にしてもらえないんでしょうか?」。

 追跡捜査中の刑事の公用車をスピード違反でつかまえてしまったり、上司の藤に「きっと将来立派なお姑(しゅうとめ)さんになれると思います」と悪意なく暴言を吐く「怪物ルーキー」の川合。かつて広報紙に描いた交番所長の顔で署内を爆笑させた画力が、大事件で意外にも成果を挙げたりもする。

 検視や警察術科訓練、職務質問のあれこれや、「教養」「通常点検」といった警察内部のリアルな日常が、とても興味深い。

 「ブラック」な職場ではあるけれども、自虐的に笑うしかない諦観と、それでもほんの少しは良いこともあるという世界観が、時代の気分を表しているのかもしれない。(上野敦・共同通信文化部記者)