「天泣」の空

 きのう天を仰げば、午前中は白い雲が浮かぶ夏空だったが、午後には灰色の雨雲と白い雲が隣り合い、なんとも奇妙な模様に見えた。やがてポツポツ降ってきて、空が泣き始めたようでもあった▲「天泣(てんきゅう)」とは天気雨、つまり「日が照っているのに降る雨」の異称という。天気雨だけでなく、天が泣き、人々を泣かせる雨をそう呼んでみたくなる。お盆休みの列島を大型の台風10号が襲っている▲西日本を縦断する見通しで、天気図の暴風域、強風域の円を北にたどれば、四国、中国地方へと、昨年の西日本豪雨の被災地あたりに向かっている。総雨量が1200ミリを超える所もあるとみられる▲そうなれば、西日本豪雨でひどくやられた所の雨量とほぼ変わらないか、それを上回る。今も自宅に戻れず、仮住まいを続ける豪雨の被災者も大勢いる。また泣かされるのかと、気が気ではないだろう▲陸、海、空の交通機関はあちらこちらで運休し、Uターンの人々は移動を早めたり、遅くしたりと混乱を来している。本県でも交通や行事への影響は大きい▲どんな時でも、どんな所にも、台風、豪雨はないに限るのだが、よりによって人々が帰省先から戻るこの時期に、よりによって被災地の方へ向かう進路で、天が泣くほどの雨が襲うこともないだろうにと、また空を仰ぐ。(徹)

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