長崎県舞台「手のひらの楽園」出版 小説家・宮木あや子さん 長崎弁も全開 エステティシャン目指す女子高生描く

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書店に設けられた特設コーナーで「手のひらの楽園」を手にポーズを取る宮木さん=長崎市、紀伊國屋書店長崎店

 長崎県を舞台に、エステティシャンを目指す女子高生の学園生活を明るくさわやかに描いた小説「手のひらの楽園」(新潮社)が、7月出版された。西海市松島や大村市などを取材し、長崎県の自然や歴史、人の魅力を随所に感じさせる作品に仕上げたのは、東京在住の小説家、宮木あや子さん。長崎弁全開のいきいきとした会話も印象的で、県民にとっても古里の素晴らしさを再認識させる内容になっている。7月に長崎県を訪れた宮木さんに話を聞いた。

 「松乃島は昼が長い。(中略)同じく本土から来た別の人は、松乃島は海の色が濃いと言っていた-」
 こんな書き出しで始まる同作。宮木さんは「海の青さが違うのは実感。松島港に着いたとき、にごっているわけでなくお魚が見えて、透明度が高いのに色がすごく濃くて。まず、それを書こうと思った」と声を弾ませた。
 主人公の園部友麻は、松島をモデルにした長崎県の離島「松乃島」の出身。同じく大村市がモデルの「大野村市」にある夕陽ノ丘高エステ科の2年生。一人親の母を癒やすためエステティシャンを目指し、高校の寮で暮らしている。家は貧乏で母は行方不明だが、自然体で学園生活を満喫する友麻。友情、恋、家族…、直面するさまざまな問題に、世間の価値観に振り回されず、素直に向き合う姿が描かれる。
 夕陽ノ丘高のモデルは大村市の向陽高。数年前、宮木さんの担当になったエステティシャンが向陽高エステ科のOGだったことが、執筆のきっかけになった。「偶然、2人連続で向陽高出身の人に担当してもらった。最初の子はすごく若くて不安だったが『高校1年から勉強しているので経験はあるんです』と言われ、本当に上手だった。『大丈夫』と言えることがすごいと思った」と振り返る。
 同作の構想を固め、長崎県を小説や漫画の舞台にしてもらう県の事業の支援で2017年6月、2泊3日の取材旅行に訪れた。向陽高エステ科の生徒らの話は実際の登場人物にも反映。「本当にいい子たちで、この高校を舞台に暗い話は書けないと思った。地元愛がみんなすごくて、長崎県は魅力的な土地なんだろうなと思った」と言う。
 長崎弁の会話については、県の担当者もチェックして県民が読んでも違和感がない内容になっている。「分かる部分は自分で頑張ったが、(県から)返ってきた文章が解読できなかったことがあった」と苦笑する。東京でも街角や電車の中で高校生の会話に耳を澄ませ、リアルなやりとりを作中に生かした。
 同作について「私はキラキラした高校時代を送れなかったので、私のあこがれも含まれている。中学生には『高校生活は楽しいんだ』とわくわくしてもらえたら。高校を既に卒業した人は、本の中ですてきな高校生活を送ってほしい」と期待を込めた。
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 2006年「花宵道中」で「女による女のためのR-18文学賞」(新潮社)大賞・読者賞を同時受賞しデビュー。テレビドラマ化された話題作「校閲ガール」をはじめ、多数の著書がある宮木さん。小説を書き始めたのは13歳から。社会人として働いていたときに体調を崩し「忙しすぎて死ぬかもしれないと思い、死ぬぐらいだったら死に物狂いで小説を書こう」と一念発起。夢を実現させた。
 「小説家になるのは比較的容易だった。ただその後は、本当に地獄を歩いている気分。一人でやる作業。根幹のところは自分で考えて進めなければならない」とプロの苦労をにじませる。それでも「作品を読んだ人に心から『面白かった』と言ってもらえると、良かったなと思う。ちゃんと『面白かった』と言ってもらえるために書いている」と語る。
 長崎新聞青春ウイング読者へのメッセージをお願いすると「青春って、真っただ中だと自分では気付かないけど、貴重な年代。その貴重な青春のお供に、ぜひ作品を読んでほしい」と明るくPRした。