名スコアラーが語る 巨人原監督の機動力野球の思考とスペシャリスト鈴木尚広の存在

巨人・原監督【写真:Getty Images】

巨人で02年からチーフスコアラー 09年WBC日本代表でも原監督とともに戦った三井康浩氏

 5年ぶりのリーグ優勝を目指す巨人はここからが勝負所。3連覇中の広島が3位、2017年にCSを勝ち抜き、日本シリーズに進出したDeNAが2位と、経験が大きなアドバンテージとなる季節がやってくる。リーグ優勝7回、日本一3回の原監督の手腕に大きな期待がかかる。今季は若手を育てながら、勝ち星を伸ばす中、機動力も大きなポイントとなっている。長年、巨人でスコアラーを務めた三井康浩氏が足を使った野球を掲げる原野球を解説する。

 打って点が取れなければ、奪い取ればいい。巨人は機動力で勝利をもぎとった試合が多く見られた。例えば、7月8日の阪神戦(甲子園)。同点の8回1死で岡本和真内野手が安打で出塁すると、原監督は代走に俊足の増田大輝内野手を送った。足を警戒した阪神・ジョンソンが一塁牽制悪送球で増田は二進。その後、三盗に成功した。1死三塁から陽岱鋼のたたきつけた打球が阪神の遊撃・植田のグラブを弾き、増田が生還。勝ち越しに成功し、勝利。4連敗中のチームを救った。その5日前の中日戦(東京ドーム)でも同点の9回裏、若林晃弘内野手が四球で出塁後、二盗と犠打失策で一気に生還し、サヨナラ勝ちを収めていた。

 強い巨人が戻ってきた感じがした。前回の原政権の時もこのような形で接戦を取る場面が多く見られた。

「原監督は足を絡めるのが好きといいますか、塁を進めてチームを動かします。無死(あるいは1死)一、三塁の状況を作ることを意識して、そこからどんな形でもいいから得点することを望む。対照的だったのは長嶋監督で、走者を貯めて、大きいので“ドーン”と返すタイプ。同じ野手出身の監督なので、点を取りたい思いは一緒ですが、原監督の場合は足で、という思いがある。他の野手監督とは一歩先に行った野球の考えをされています」

 三井氏はスコアラーを務めていた時期、攻略が難しいバッテリーが相手の試合のことを思い返した。よく原監督はこのように言っていたという。

「今日の投手はなかなか点が取れない。四球、死球でもいいから、とにかく塁に出て、足でかき回そう。ノーヒットで1点、取ろうじゃないか」

 そのような試合や接戦で当時、走塁のスペシャリストと呼ばれた鈴木尚広外野手(現1軍外野守備走塁コーチ)が代走で盗塁を決め、バッテリーミスで進塁、内野ゴロの間に1点……と鈴木コーチの足で決勝点を奪うケースが何度もあった。

巨人でスコアラーを務めた三井康浩氏【写真:荒川祐史】

心強い鈴木尚広1軍外野守備走塁コーチの存在 失敗も成長の糧としてきた

「四球からバントや盗塁、1死三塁の状況を作れば、犠牲フライでも内野ゴロでも1点が入る。ノーヒットで1点を取ることがベストという状況を作れば、どんどん足を使う。一、三塁でセーフティスクイズでもそうです。足を絡めたいので、そういう選手選び、チーム作りを監督はしています。なんでもかんでも、本塁打で点を取る!ではなく、これだけ長打を打てる選手が中軸にいるのならば、前後やその間を足のある選手で埋めようとか、そういうビジョンを持っています。取れる点は確実に取って行こうという考えです」

 その鈴木コーチが一塁コーチャーボックスにいるのも心強い。増田大や若林、重信慎之介外野手らの積極性につながっている。鈴木コーチは現役時代、盗塁失敗で原監督から怒られたことは一度もなかった。まずはスタートを切る勇気を若手に植え付けている。

「選手たちは若いので、まだイケイケの感じはあります。なので、バッティングが好調だったルーキーによくあるように、そのうち、壁に当たると思います。積極的に走塁を仕掛けても、アウトになったことで、走れなくなる可能性も出てきます。実は鈴木コーチも現役時代、そういう時がありました」

 鈴木コーチも原監督からその脚力を見出され、巨人の主力選手になっていったが、人一倍、陰で努力をした。失敗しても、そのあと自分の弱さと向き合い、独自の考えを確立し、地位を築いた。

「何をしたかというと、基本的には、走るフォームを工夫していました。それに私たちスコアラーのいる分析の部屋に来ては、相手投手の牽制のビデオを見て、癖のチェックをとことんしていましたね。そこが足のスペシャリストにつながったと思います。今の選手が壁にぶつかっても、いい手本が身近にいます。必ず、アドバイスをしてくれるので、忠実に守っていけば今の若い選手も十分、戦力になれると思います。積極性と自信を失ってはいけませんが、失った時にそこで終わってしまうのか、もう1個、工夫と努力をし、積極性を取り戻すことができるのかが、これからずっと試合に出続けて行けるかのポイントになってくると思います」(三井康浩 / Yasuhiro Mitsui)

プロフィール
三井康浩(みつい・やすひろ)1961年1月19日、島根県出身。出雲西高から78年ドラフト外で巨人に入団。85年に引退。86年に巨人2軍サブマネジャーを務め、87年にスコアラーに転身。02年にチーフスコアラー。08年から査定を担当。その後、編成統括ディレクターとしてスカウティングや外国人獲得なども行った。2009年にはWBC日本代表のスコアラーも務めた。松井秀喜氏、高橋由伸氏、二岡智宏氏、阿部慎之助選手らからの信頼も厚い。現在は野球解説者をしながら、少年野球の指導、講演なども行っている。

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