トヨタ「スープラ」が17年ぶりに復活、なんと兄弟車はBMW「Z4」

ミニバンやSUVといった実用を優先した車が全盛ですが、そんな中にトヨタは伝説的なスポーツカーブランド、「GRスープラ」という名前を与えて純粋なスポーツクーペを復活させました。久しぶりの国産スポーツカーの新型車とは、いったいどんな魅力を持った車なのでしょうか?


トヨタの本気度が感じられる

80年代から90年代にかけてスポーツカー好きを自認していた人たちにとっては懐かしい名前「スープラ」が復活しました。1978年に初代モデルが登場し、生産が終了した2002年までの24年間、4世代のモデルが登場したトヨタのスポーツカーブランドのフラッグシップなのです。最終モデルの4代目スープラなどは、日本でも人気となった映画「初代ワイルド・スピード」の主人公「ブライアン」が乗っていたこともあり、日本ばかり北米ではいまも伝説的な大人気となっている車です。当然、生産終了当時は世界のスポーツカー好きから惜しまれつつ消えていったわけです。

ロングノーズ、ショートデッキという、典型的なFR(後輪駆動)スポーツカーのフォルム

そんな名車「スープラ」が17年半ぶりに復活し、今年1月の北米国際自動車ショーで世界初公開されたのです。おまけに車名にはチョットした変化がありました。「トヨタ」と「スープラ」の間に「GR」の文字が入ったことです。これは何を意味するのでしょうか? 実はGRとはトヨタのレース活動を行うワークスチーム、つまりメーカーが自己資金で運営するレーシングチームにして、ストリート向けスポーツモデルの開発を行う「TOYOTA GAZOO Racing(=GR)」のブランド名なんです。この名を冠して世界に向けて販売するグローバルモデルということですから“本気度MAX”と、メーカー自身が宣言しているようなものです。世界のスポーツカー好きにとっては久々に気分が上がるモデルです。

さらにトピックはもうひとつあります。今回の「GRスープラ」はBMWとの共同開発であり、ロードスターとして人気の「BMW Z4」と兄弟車がある事も重要なポイントなんです。少し詳しく言えば「GRスープラ」と「Z4」の両車は90%の部品を共有し、車の基本となるエンジンやシャシなどのプラットフォームなどが同じです。さらに両車はオーストリアにある「マグナ・シュタイヤー」という会社の工場で混流生産されます。

リアフェンダーのボリューム感ある膨らみと左右にあまり長くないリアスポイラー

しかし、車の骨格など基本的な部分以外は、各社が独自の内外デザイン、シート、足回りなどのセッティング、そしてマネジメントなどといった味付けはトヨタとBMWがそれぞれの独自に行ったのです。もっとも大きな両車の違いはスープラがクーペで、「Z4」はオープンモデルということです。このように同じ骨格を持っていても味付けの差によって、車としての風味がかなり違ってくるのが面白いのです。

では、今回の主役「GRスープラ」を走らせてみましょう。

「Z4」との違いはどこ?

12スピーカー・最大出力425Wという贅沢な音響
リアハッチを挙げれば290リットル(VDA法)の容量

まずは3種類あるエンジン構成を少し整理しておきましょう。
もっとも強力なエンジンは3リットル 6気筒ターボの340馬力で、最上級グレード「RZ」に搭載されます。その次は中間グレードの「SZ-R」というモデルに与えられている2リットル4気筒ターボエンジンは258馬力を発生します。そしてベースモデル「SZ」に与えられるのは2リットル4気筒ターボでパワーは197馬力と一番大人しい仕様となります。ちなみにエンジン構成は「Z4」の本国仕様と同じですが、日本に導入される「Z4」のラインナップには中間の258馬力モデルは現状ありません。

タイヤはMICHELIN PILOT SUPER SPORTを採用

今回は最強モデルのRZで340馬力です。インテリアを見回しますが、もちろん「Z4」とは基本のレイアウトは似ているのですが違ったデザインです。「GRスープラ」は水平ラインを基調に上下に分割されたデザインで、「Z4」よりスッキリとした印象です。早速エンジンをスタートさせると、うるさくはないのですがブォ~ンというエンジン音とともに回り出します。スポーツカー好きはここで“やる気スイッチ”が入ったりするものです。ブレーキを踏みながらATのシフトレバーを操作し、Dポジションに入れます。それは「Z4」と同じ操作行程ですが、コンソールにある他のスイッチなどの操作類や、なんとウインカーレバーですらステアリングコラムの左側、ワイパーレバーが右側に装備されていますから、デザインの違う「Z4」に乗っている感覚といったところです。

エアコンの吹き出し口を装備して水平基調のデザイン

ところがアクセル踏み込んで走り出してみると、“え、なんだ、この乗り心地の良さとスムーズさ”はというのが第一印象です。国産スポーツにありがちな、足回りガチガチ、アクセル踏んだらいきなりトルクが立ち上がり、ドッカ~ンという加速感を本当は覚悟していたのですが、完全なる肩すかしを食らいました。

もちろん「Z4」との走りの味の違いは明確になります。その加速感、ブレーキのジンワリと、しかし確実な効き味、そして何ともしなやかなコーナリングは何とも紳士的で大人の味わいなのです。おまけに気が付くと相当な速さに達しているのですから、油断するとライセンスに傷が付きますので、ご用心です。

さらに右に左にとくねくねするワインディングに入ると、このモデルの売りでもある電子制御の足回りがいい味を出してくれます。ステアリングを切り始めたコーナリングの初期は、どこか人工的で電気的な感じで、クイッと曲がり始めます。ところが、その先の味付けはマイルドで自然な感じのままノーズの向きが変わっていって、フラットな姿勢を保ったまま、安定してコーナーを駆け抜けていくのです。エンジンのパワーと足回りとのバランスが実に美味く仕上げられているのですが、このトヨタ流の和風味付けは決してイヤではありません。

さらに嬉しいのは、ごくごく普通の市街地や高速でゆったりした走行でも、ガッチリとした剛性感の高いボディとサスペンションのセッティングによって、乗り心地がとても良好な点です。私の持論ですが“優れたスポーツカーほど乗り心地がいい”という原則にピタリと符合するスポーツカーなのです。

スポーツカー好きが納得する出来

両サイドが高めで体をすっぽりと包む感じのシート

「GRスープラ」の最強モデルRZ、久しぶりにスポーツカー好きに刺さっていることが十分に納得できる走りでした。
さらにスポーツカーらしい演出を感じた部分がありました。たとえば、運転しているときなのですが、ドライバーの視線の先に、フロントフェンダーの膨らみがはっきりと見えます。そしてバックミラーにもリアフェンダーのボリューム感のあるラインがはっきりと見えるのです。これはデザイン上の演出というよりはスポーツカーのボディ感覚を、まるで手の内にあるかのように把握するためにはとても役に立つのです。トヨタもなかなかやるじゃないか、という印象ですね。

フロントフェンダーやリアフェンダーの膨らみを確認できることで車両感覚が掴みやすい

試乗を終えて、「GRスープラ」を試す前にあった疑問が消えました。そうです「Z4」と、どちらがお得か? いや、どちらが魅力的か? という疑問でしたが、はっきり言ってその比較はあまり意味が無いように思えてきました。

かたやBMWというプレミアムブランドのロードスターであり、走りはBMWらしく切れ味のいい、上質なしつらえでした。一方の「GRスープラ」はトヨタを代表するスポーツクーペであり、「Z4」とは違うポジションにあり、スポーツカーとしてより純粋に走りを楽しむならこちらでもいいので、最初から同じまな板の上には上がらない気がしました。

さらにスタイルです。好き嫌いは別として「GRスープラ」のスタイルは、いかにも日本的で一見無骨と言うかワイルドです。一方の「Z4」はBMWの硬質でいかにも優等生的なデザインであり、まったく違った存在感を持っていて、好みが端っから分かれるのです。車の価値観はとても多様化しています。多人数で沢山の荷物も積んで走ることより、“移動することをスポーティに気持ちよく楽しむ”なら、ちょっとお薦めの選択肢だと思います。

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