半世紀超で3つ目の新規抗結核薬登場 MSFは価格の上限設定を求める

インド西部マニプール州の自宅で投薬治療を受ける多剤耐性結核患者。注射と15錠もの薬の服用が2年間続く © Jan-Joseph Stok

インド西部マニプール州の自宅で投薬治療を受ける多剤耐性結核患者。注射と15錠もの薬の服用が2年間続く © Jan-Joseph Stok

新薬プレトマニドを用いた画期的な超多剤耐性結核(XDR-TB)の治療計画

購入可能な価格設定が患者の生死を分ける

国境なき医師団(MSF)は、8月14日(米国東部時間)、米国食品医薬品局(FDA)が新薬プレトマニドを使用した超多剤耐性結核(XDR-TB)の併用療法を承認したことを歓迎する。過去50年以上の間に開発された3つ目の新規抗結核薬である。すぐに使える治療計画の一部としては初めての薬となる。プレトマニドの承認は、薬剤に耐性を持つ結核(DR-TB)という、治療の難しい病気に効くツールが新たに生まれたということである。MSFは、この薬を必要とするすべての人の手が届く価格でなければならないと強調する。納税者と慈善団体の資金を受けて開発された事情を踏まえれば、なおさらである。

XDR-TBや、副作用に耐えられない、または、不応性の多剤耐性肺結核を患う成人患者に対して、 本日承認された、この3剤併用療法(通称「BPaL」:ベダキリン+プレトマニド+高用量のリネゾリド)は治療期間を6ヵ月と劇的に短縮できる上に、必要な薬の数も大幅に抑えられるため、現状では34%と非常に低いXDR-TBの治癒率を高められるとみられている。新しい治療計画は短期で投与もしやすい。ただ、高用量のリネゾリド投与に伴い、副作用の集中監視が必要になるため、BPaLを手放しに楽観視できるわけではない。MSFと非営利団体のTBアライアンスはより安全性の高い治療の選択肢を見つけ出すため、プレトマニドを含めた治療計画に関して別の臨床実験を行っている。

「発見されてからこのかた、XDR-TBの治療は、ひどい状態が続いていました」と、感染症の専門家として、MSFで結核分野の医療顧問を務めるジェイ・アチャールは話す。「有効な治療計画を利用できれば、患者は治る希望も持てますし、結核対策の前線でも、この致命的な細菌の感染拡大を防ぐ助けになります。より安全でシンプルな治療計画は今後も必要とされますが、この短期間集中型の新しい治療計画は、正しい方向に進む大きな一歩といえるでしょう」

プレトマニドはTBアライアンスによって開発され、オーストラリア、ドイツ、英国、米国などの政府と慈善団体から資金援助を受けている。この資金援助は、同団体が「よりよい、即効作用型の購入しやすい抗結核薬を発見、開発、製品化して、必要な人に届ける」という使命を忠実に果たすであろうという期待の元に実現した。さらに、TBアライアンスはFDAが「顧みられない病気」の治療薬に与える優先審査保証(PRV)の取得資格も有している。保有者はPRVを高額で売却することも可能だ。過去には、PRVが6700万から3億500万米ドル(約71億3800万円~372億8900万円)で売られていた例もある。MSFはTBアライアンスに対し、この売却益を利用して、プレトマニドを購入しやすい価格で早期に市場に投入するよう呼びかける。

「新たに承認されたプレトマニドを含む治療計画は、XDR-TB患者にとって、救いの神となるかもしれません。ただ、お祝いするのは時期尚早です」とMSFの必須医薬品キャンペーンでHIV・結核政策顧問を務めるシャロナン・リンチは話す。「FDAによる、この新しい治療計画承認は、“初めの一歩”に過ぎません。次はすべての国でプレトマニドが登録され、購入しやすい価格で入手できるようになる必要があります。それも、結核による負荷が最も重い国を優先する必要があります」

2019年4月、TBアライアンスはプレトマニドの製造、登録、供給を可能にする最初のライセンスを、米国の製薬会社マイラン社に供与した。これまでのところ、TBアライアンスとマイラン社はプレトマニドの価格を公表していない。プレトマニドの後発薬(ジェネリック薬)が製造された場合、治療1日あたり36セントから1ドル14セント(約38円~121円)の価格で販売すれば、利益を確保できると推計される。上記の治療計画に含まれている他の2つの薬、ベダキリンとリネゾリドだけでも世界最低価格で見てすでに1日あたり3米ドル(約320円)ぐらいの費用がかかる。治療期間は6ヵ月。患者1人あたりの費用は、合計548米ドル(約5万8384円)ほどに達しており、そこにさらにプレトマニドの価格が加わることになる。MSFは、DR-TBの一人あたりの治療費を投薬期間全体で500米ドル(約5万3270円)以下に抑えるよう、訴えている。

ライセンス供与から4ヵ月経っても、マイラン社もTBアライアンスもライセンス契約を公表していない。契約条件を明らかにするよう、市民社会から再三求められているにも関わらず。この条件次第で、世界全体でどれだけの人がこの薬を手に入れられるかが左右される。マイラン社は、2020年1月までにプレトマニドを発売するとみられる。ただ、それも世界保健機関(WHO)によるこの薬の使用方針と、マイラン社がDR-TBの負荷が最も高い国で登録申請を行うかどうかにかかっている。

「TBアライアンスとマイラン社はこの機を逃さず、購入しやすい薬を届けるという、TBアライアンスの使命を遂行していく必要があります。そのために政府や慈善団体からの資金援助を得てプレトマニドとこの併用療法を開発できたのですから。それに、購入しやすい価格で提供されるかどうかは、結核の薬剤耐性菌に冒された人にとって、生きるか死ぬかの問題なのです」とリンチは話した。 

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