長い練習や罵声伴う指導なし 注目集める少年野球チーム

練習は週に最大4時間。野球の基本動作を教える=川崎市高津区

 野球人口の減少に歯止めをかけようと、新たな方針を掲げた少年野球チームが発足した。川崎市高津区のブエナビスタ少年野球クラブ。長い練習時間や投手の酷使、罵声を伴う指導といった慣習から一線を画し、お茶当番の廃止など父母の負担軽減も掲げる。3月の発足以来既に30人近くの選手が集まっており、にわかに注目が集まっている。

 同区の小学校や河川敷で汗を流す子どもたち。上手に捕球できなくても、きれいなヒットが打てなくてもいい。勝利至上主義ではなく、まずは野球を好きでいてもらうことが第一だ。

 結成5カ月で部員は28人になった。代表の男性(40)は手応えとともに言う。「将来野球を続けなくても、子どもが生まれてキャッチボールしようとか、球場に野球を見に行こうとなることが大事。野球人口を増やすには小学校しかない」

 2016年の全国の小中学生の野球人口は50万人弱で、10年間で約20万人減少、県内でも学童野球(小学生)のチーム数が800ほどで10年前から半減しているというデータもある。横浜DeNAベイスターズの主砲、筒香嘉智選手が折に触れて勝利至上主義や旧態依然とした指導法の改善を求めるなど、プロ野球界からも声が上がる。

 もともと高校まで球児だった男性。長男が野球に興味を持った際、少年野球の現状に触れ、危機感を持った。かつて運動能力の高い子どもはおのずと野球を選んでいた。今は必ずしもそうではない。「野球をやりたくても親のしがらみで選べなかった子もいると聞いた。このままだと野球界は本当にまずい」

 先進的な運営手法を取る茨城県つくば市の少年野球チームを参考に、現在小学3年生の長男とともに新チームを立ち上げた。

 「小学校の頃しか親子で一緒に出掛けられないし、(お茶当番などで親が駆り出されることで)きょうだいが犠牲になる可能性もある。子どもの頃は遊ぶことも、勉強することも、家族と過ごすことも大事だし、遊びの中で野球がうまくなることもある」

 だから、練習は土日のいずれか半日のみ。成長の芽を摘みかねない指導者の罵声は禁止している。まだ試合はしていないが、先発投手は70球程度に制限するつもりだ。「基本動作だけ覚えて、次の年代に進めばいい」。男性自身、高校時代にけがで野球を断念した過去がある。

 チーム名の「ブエナビスタ」はスペイン語で「絶景」を意味する。「この子たちが大きくなったときに、今やっているこの景色が、絶景だったと思えるようなチームでありたい」。男性の視線の先には、和気あいあいと白球を追う子どもたちの姿がある。

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