「言葉」には まだ力がある ジブリ・ 鈴木敏夫さんインタビュー ハウステンボスで開催中「鈴木敏夫とジブリ展」

「素敵って言葉、最近男の子がよく使いますよね」。時代、社会をつかまえる多彩な着目点について語る鈴木さん=佐世保市、ハウステンボス美術館

 佐世保市のハウステンボス(HTB)内、ハウステンボス美術館で「鈴木敏夫とジブリ展」(HTB主催、長崎新聞社共催)が開催中。スタジオジブリのプロデューサー、鈴木さんにアニメ映画の宣伝などで使う言葉や、仕事を巡って話を聞いた。

 ■昭和を守った
 -同展で伝えたいことは。
 特に昭和から平成ですよね。僕は子ども時代から昭和を過ごしましたが、ジブリでの仕事は平成。やっぱり平成って女性が大きく変化した時代。男は変わらなかったって気がする。むしろ、しぼんでいったというか。その間、ジブリの映画はずっと女性が主人公だった。時代に見合っていた。
 ジブリ作品の特徴は「面白くてためになる」。それって昭和の言葉だと思うんですよ。平成は映画や漫画、小説にしろ、面白いものは面白いもの、ためになるものはためになるものって分かれちゃった時代じゃないかな。でもジブリはかたくなに昭和を守ったというか。それがいろんな人に支持された一つの原因。
 ジブリ作品が扱ってきたものは「人生」ですよね。そういう言葉が古びてきた時代に堂々とやったってことが(同展で)見える。
 -ジブリ作品には確かに昭和があると思います。
 僕らの世代にとって佐世保っていうと(米原子力空母)エンタープライズの入港を巡って日本が大騒ぎになった象徴的な街。そういうことを体験した人がジブリを作っている。宮崎駿も当然時代の洗礼を受けている。例えば中国が経済的にすごいとかそういう話を聞くと、かつては文化大革命とかいろんなことがあったと。宮崎なんか「えらい変化だな」と言う。そういう変化の中で映画を作ろうというとき、どうしても自分の原点みたいなものをどこかで引きずっている。
 -そこに深みがある。
 年寄りの有利さですね。

 ■手書きは刻印
 -同展は言葉と手書きの世界がポイント。手書きで伝える良さとは。
 紙に何かを書くということはずっとやってきて。ワープロが出て便利になった一方、やっぱり手で書いた方が早い。宮崎も僕もその世代の人間なんで何でも手で書いちゃう。自分の刻印がないと駄目みたいな。これは俺の字っていうね。
 -書いた人の性格とか質みたいなものが手書きには出ます。
 子どもの頃は、筆跡で性格まで分かるって言われた時代。字はちゃんときれいに書かないといけないと学んだ。おふくろはとにかく字にはうるさかった。ちゃんと書けって。だから僕の字の元はおふくろなんです。字が上手じゃないと一人前の大人じゃないって言われていた。宮崎と出会った頃、僕も彼もそこらへんにある紙ですぐいたずら描きをした。僕もある時期まで絵を描いてたんですよ。ところが宮崎が絵を描くと当然うまい。じゃあ俺は字を書こうって。
 -書は習ったんですか。
 習字はおふくろに習っただけ。おふくろは字がうまかった。白い紙に書く前に新聞紙に練習させられました。その癖が抜けなくて、今も書き損じの紙にまずちょっと書いてみて、いけると思ったらちゃんと書いたりするんですけどね。
 -言葉を生み出していくことに強いこだわりがありますね。
 僕らの世代がものを考えるとき、単位はやっぱり言葉。その組み合わせによって、ある考え方をつくる。言葉が好きな世代だし、支配された世代ですよね。だんだん言葉がそうじゃなくなってきている時代でも、僕は映画の宣伝という枠で言葉を使って作品を紹介する。するとそれに反応してくれる人たちがいる。やっぱり言葉って力があるし、まだまだって思ってますけどね。
 -言葉へのこだわりは子ども時代からですか。
 僕らぐらいまでですかね本を読んで立派な人間になるって考え方があったのは。本は読まなきゃいけなかった。そうじゃなくなったのが現代。昔はみんな、ある種の向上心があった。例えば映画「耳をすませば」で、「お互いに高め合う」なんていう言葉を宣伝に使ったんですよね。今、無いでしょそういうの。でもそういう言葉を使ってみたら、みんな反応がよかったんですよ。男女ってそういうものかと。小説でも漫画でもそういうものをいっぱい読んできたんですよ。

 ■生ネタが好き
 -同展の鈴木さんの週刊誌記者時代のコーナーで、現場に行って当事者と話す、固定観念にとらわれず素早く動くなどと書いてあった。その後も記者時代の生き方を大切にされてきたんですか。
 おっしゃるとおりでね。業界用語でいうと生ネタ。百聞は一見にしかず、四の五の言う前にまず見に行け。それは体に染み付いてます。だからネットも含めて雑誌も新聞も、活字になったものはもう古いという感覚がぬぐいがたくある。生ネタは活字になってない、言葉になってない。それを見るのが好きですね。わくわくして、それをどう言葉にするか。週刊誌の記者の時はそれをやってましたから。
 たぶん、一生記者ですよね。記者であり編集者。この二つ。プロデューサーをやらなきゃならなくなったとき、やっぱり悩んだ。でも記者であり編集者であれば何とかなるかなって。そういうふうに思ったことは確かですね。
 宮崎と一緒にものを作るとき、世間で起きていることでテレビとかネットで流れてないことをよく話しますね。例えば雑談で「最近神社行くとね、お参りを皆さんするんだけれど、そのお参りの時間長くなってますよ」って。生ネタでしょ。そういうつかまえ方ですよね。お参りの作法もきちんとして、すごい時間かけておやりになる方が増えている。するとね、これはやっぱり現代とは何かっていう考え方なんですよ。

 ■仕事は面白く
 -なんとなく感じていることも言葉にすると思考が次に行きますね。仕事の点で大事にしてきたことは。
 まずどうしたら面白くできるか。やってきたのはそれだけ。仕事はなんでも来いなんですよ。僕らも若い頃そうだったんですけども、嫌なことをやらされて何時間も縛られるということではなかった。面白いから長くやってたんですよね。
 -県民にメッセージを。
 嫌な時代ですけども、工夫してみると捨てたもんじゃないよ人生はっていう。

◎鈴木敏夫とジブリ展
 アニメーション製作会社スタジオジブリ(東京)のプロデューサー、鈴木敏夫さんの言葉にスポットを当てた展覧会。宮崎駿、高畑勲両監督の思いや意図をくみ取り、作品の本質を言葉で表現してきた鈴木さん。昭和、平成と時代の流れとともにその仕事を紹介。「もののけ姫」「千と千尋の神隠し」などの作中で語られるせりふの直筆書画や珍しい資料などが並ぶ。9月23日まで。

佐世保市のハウステンボス美術館で開かれている「鈴木敏夫とジブリ展」(©TS ©Studio Ghibli)

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