いつだって魅力的な彼女。ただ彼女は僕の妹だった。
脳からの信号が、ダメだ、そこへ行っちゃいけないと言っている。
頭ではわかっている。しかし、彼女を前にすると、どうしても考えがうまくまとまらない。自分でも混乱しているのがわかる。だからこそ僕は、学生時代から常に理性的に、そして冷静に生きようと努めてきたつもりだ。
しかし、彼女はいつだって魅力的で、大学時代の友人である浅野は「彼女以上に可愛い娘なんてお前の地元にゃいない」と断言していたが、確かに僕もそう思っていた。だが、やはり認めたくはない。認めてはいけない。
なぜなら、彼女は僕の妹なのだから───。
(この物語はフィクションです。)
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久しぶりにドライブに行きたいと提案してきたのは、比菜のほうだった。都内住みでクルマ、しかもレクサスに乗っている兄の存在は、彼女にとってよほど便利で都合がいいらしく、一ヶ月に一度は、実家のある田舎から僕の家へ遊びにくる。
僕にガールフレンドでもいれば断りようもあるのだが、順調ではあるが忙し過ぎる仕事に忙殺される日々で、僕には恋をする暇などないのだ。都内の大学を卒業してから、そんな状態のまま年月を重ねていたものだから、貯金だけは貯まった。そして35歳になった昨年、このNXを購入したというわけだ。
コンパクトなクロスオーバーモデル。と言っても今はUXという、さらに小さなモデルもあるそうだが、このシュッと引き締まった凝縮感が魅力である。デザイン面では、スピンドルグリルが攻撃的な雰囲気だが、それを差し引いてもどこか理知的で、そのように生きたいと思っていた僕がこのクルマを選ばない手はなかった。
「ドライブデートだ、わーいわーい!」
比菜は助手席で足をバタバタさせている。まったく小学生のような態度だが、年齢は27歳だ。専門学校を卒業後、地元の企業に就職した。いつになっても兄離れができない困った奴だが、実は僕も同様に妹離れができていない。
今日の洋服だって、彼女のリクエストどおりだ。比菜が僕のことを「シャツが似合う」などと言ってくれるのが嬉しくて、いつも言われるがままなのだが、彼女曰く、「だっておにいは、放っておくと雑誌に書いてあるコーディネートそのまま着てるじゃん」だそうだ。普段、スーツを着て仕事しているサラリーマンなんて、みんなそんなもんなんだよ。
話のテンションをひきずったかのように、天気はあまり良くなかった
ターボモデルかハイブリッドモデルか。このNXには2種類のパワーユニットが設定されているが、僕はハイブリッドのほうを選んだ。元来、レクサスは「静か」というイメージだが、だからこそ、その強みが強調されるハイブリッドを選んだのだ。乗り心地だってすごく良くて、道路からの衝撃をしっかりサスペンションが吸収してくれるような感じで、SUVとは思えないくらいしなやかに走る。
NXの走りが静かで穏やか過ぎるからか、道中、比菜との会話もおおいに弾んだ。それなりに楽しんでいるという仕事の話、地元に残った仲間たちの話などをしながら、ケラケラと歯を見せて笑う彼女の姿を見ていられるのが、僕は嬉しかった。
「で、お義母さんの具合はどうなんだ?」
実家の様子を尋ねると、さっきまではしゃいでいた比菜が、視線を胸元に落とす。
「う~ん、あまり良くはないかな。けど、お義父さんがついてくれてるから……」
「まぁ、親父が一緒にいるのが一番だからな」
「お義父さん、私に楽しんでおいでってさ」
目的地に着くと、さっきまでの話のテンションをひきずったかのように、天気はあまり良くなかった。NXから降りる際に、僕はセンターコンソールボックスから一眼レフを取り出すと、電源を入れて比菜に向けた。NXの隣で、街のあちらこちらで、彼女の姿を写真に収めた。気のせいか、彼女の瞳はいつもより潤んでいるようにも思えた。
「比菜は写真のほうが可愛いよな」と冗談を言うと、彼女は「ふ~んだ!」と言ってふくれっ面になる。それもまた可愛い。
「まったく彼氏が羨ましいよ」
「彼氏なんていませんよ~だ。それに、こんな顔はお兄ちゃんにしか見せないよ!」
こいつは昔からドキッとするようなことを突然言う。
お互い気持ちがわかっているからこそ、その時は発する言葉も、できる行動も何もなかった
子どもの頃から、比菜の成長を見続け、一緒にご飯を食べ、TVをみて笑い、勉強を教え、そしていつの日か恋に落ちていた。自分の父と彼女の母との再婚で“家族”にはなったものの、それだって僕にとっては運命だったとしか言いようがない。
「本当に女らしくなったよな」と僕がしみじみ言うと、比菜ははにかんだ笑顔を見せた。
「おにいだって男としてすごいと思うよ。だってこのレクサスってクルマ、高いんでしょう?」
「ローンだよ、ローン。それに、就職してからずっと金貯めてたんだから、クルマくらいいいものを買ったってバチ当たらないだろ」
「結婚してたら買えなかった?」
「そうだな~結婚してたら、今頃スライドドアのクルマ買ってたかもな!」
レクサスが国内展開をはじめたのが2005年。実はその頃から、この「レクサス」というブランドに憧れていた。国産車らしい安心感がありながら、高級輸入車のようなラグジュアリー性も備えている。そんなブランドは他になかった。
インテリアを眺めていても、巧みな技術力が感じられる。立体的なデザインで、高級感とスポーティ感を両立している。タッチパッド式の操作パネル「リモートタッチ」を採用した最初のモデルだということだが、これも慣れると使いやすいし、後席の広さもこのくらいのサイズのSUVではトップクラスなのだそうだ。
「……いつかおにいも誰かと結婚するんだよね」
「そうだな。お義母さんにも早く孫の顔見せて、安心させてやりたいと思ってる」
「それは……その結婚相手は、どういう人なんだろうね」
「たぶん、いや、確実に、家族じゃない人になるんだと思う……」
僕がそう言うと、比菜は僕のシャツの裾をそっと握ってきた。お互い気持ちがわかっているからこそ、その時は発する言葉も、できる行動も何もなかった。
しばらくすると、彼女ははにかんだ笑顔をこちらへ向け、「帰ろう」と言った。頭の中のコンピューターがエラーを表示している。リモートタッチをどれだけ上手くコントロールしても、目的地を見つけることはできなかった。
[Text:安藤 修也/Photo:小林 岳夫/Model:中村 比菜]
中村 比菜(Hina Nakamura)
1992年1月27日生まれ(27歳) 血液型:AB型
出身地:東京都
2015・2016年:横浜DENAベイスターズ サポーティングガールズユニット diana
2017・2018年:SUPER GT D'stationフレッシュエンジェルズ
2019年:SUPER GT LEXUS TEAM SARD KOBELCO GIRLS
2018-2019:raffinee Lady
★2018 日本レースクイーン大賞 受賞
★2018 クリッカー賞/福岡アジアコレクション賞 受賞