【高校野球】球史に残る星稜奥川の投球 10回以降に150キロ超18球…データで楽しむ夏の甲子園

星稜・奥川恭伸【写真:沢井史】

延長に入って球速アップ、江川氏に並ぶ奪三振数

 第101回全国高校野球選手権大会第11日が行われた17日、第2試合で大会屈指の速球投手を擁する星稜と、5季連続出場で2試合連続OPS0.9超えの強打を誇る智弁和歌山が対戦しました。試合はもつれにもつれ、タイブレークに突入。そして、14回に劇的な結末を迎えました。この試合を、星稜・奥川恭伸投手の記録も踏まえながら、セイバーメトリクスの指標で振り返ってみます。

 使用している指標の説明は以下の通りとなっています。

OPS 出塁率+長打率 1を超えると優れている
wOBA 各プレーの得点価値を累積して算出した打撃指標
O-swing% ボールゾーンに来た球をスイングした割合
Z-swing% ストライクゾーンに来た球をスイングした割合
Swing% スイングした割合
O-contact% ボールゾーンに来た球をスイングした際にバットにボールが当たった割合
Z-contact% ストライクゾーンに来た球をスイングした際にバットにボールが当たった割合
Contact% スイングした際にバットにボールが当たった割合
Zone% ストライクゾーンを球が通過した割合
SwStr% 空振り率
WHIP 1イニングあたりに許したランナーの数
P/IP 1イニングあたりに投球した球の数
GB/FB フライに対するゴロの割合

○星稜 4-1(延長14回) 智弁和歌山

【星稜】
打率 .233  OPS.579  wOBA .257   
O-swing%  32.1%   Z-swing%  70.4%   Swing% 53.4%
O-contact% 52.0%   Z-contact% 85.5%  Contact% 76.6%
Zone% 55.7%  SwStr%  12.5%

【智弁和歌山】
打率 .067  OPS .192  wOBA .123
O-swing%  52.6%   Z-swing%  57.5%   Swing%  55.2%
O-contact%  41.5%   Z-contact%  78.0%  Contact%  61.5%
Zone% 52.7%   SwStr%  21.2%

○星稜・奥川恭伸投手の各指標

14回  打者数48 投球数165 被安打3 奪三振23 与四球1 
K/BB  23.00   WHIP  0.43   P/IP  11.79   GB/FB  0.83
         

○智弁和歌山・3投手の各指標
小林樹斗  3回2/3 打者数18 投球数70 被安打4 奪三振3 与四球1
WHIP  1.64    P/IP  19.90   GB/FB  2.20
ストレート53.4%  スライダー39.8% フォーク6.8% Zone%  52.3%   空振り率 12.5%

矢田真那斗  1回1/3 打者数5 投球数18 被安打1 奪三振2 与四球0
WHIP  0.75   P/IP  13.50

池田陽佑  8回1/3 打者数28 投球数88 
被安打5 奪三振5 与四球1
WHIP  0.72  P/IP  10.56   GB/FB  2.20
ストレート46.6%  スライダー42.0% チェンジアップ9.1%
Zone%  59.1%   空振り率 12.5%

 星稜は犠飛、智弁和歌山は失策と死球で出塁した走者を安打で返すという、どちらも少ないチャンスの中で1点をもぎ取りました。ただ、内容をみれば、智弁和歌山は3安打3四死球で出塁率は.125と完全に奥川投手に抑え込まれました。

 星稜も9回まで8安打2四死球と走者は出すものの、智弁和歌山の投手陣の踏ん張りの前に決定打が出ず、残塁の山を築きます。猛暑の中、9回まで122球を投じてきた奥川投手。スタミナや肩の消耗を案じる中、ここからとんでもない快投を演じます。

星稜・奥川は延長戦に入ってから平均球速が上がる驚異の投球

 奥川投手のイニング別ストレート平均球速と奪三振数の推移を紹介します。
(カッコ内はストレート球数)

1回 149.4キロ(5) 奪三振1
2回 149.0キロ(4) 奪三振1
3回 150.6キロ(7) 奪三振3
4回 152.2キロ(5) 奪三振2
5回 150.7キロ(9) 奪三振3
6回 147.5キロ(7) 奪三振2
7回 148.0キロ(3) 奪三振2
8回 149.8キロ(5) 奪三振2
9回 149.9キロ(7) 奪三振1
10回 152.0キロ(2) 奪三振1
11回 150.9キロ(11) 奪三振0
12回 151.0キロ(3) 奪三振3
13回 149.4キロ(7) 奪三振2
14回 148.7キロ(6) 奪三振0

 延長戦以降のストレートの球速が伸びています。10回以降に150キロ以上のストレートを実に18球も投げています。12回はストレートは3球のみですが、スライダー、フォークを駆使して3者三振に退けました。奪三振数は実に23。これは1973年に作新学院の江川卓投手が柳川商(現柳川)との延長15回で記録した23に並ぶ2位タイ記録です。

 この好投に報いるように14回裏、奥川投手の後を打つ福本選手が、池田投手の投じた88球目、122キロの甘いコースに入ったスライダーを振り抜き、左中間スタンドへのサヨナラ本塁打としたのです。

 ちなみに、奥川投手の球種別Zone%と空振り率は次のようになります。

ストレート 割合 49.1% Zone% 66.7% 空振り率 13.6%
スライダー 割合 42.4% Zone% 42.9% 空振り率 30.6%
チェンジアップ 割合 4.8% Zone% 25.0% 空振り率 12.5%
フォーク 割合 3.6% Zone% 16.7% 空振り率 33.3%
全投球中の空振り率 21.2%

 この試合の奥川投手は、球速、球威、コントロールすべてにおいて抜群のできを示す数値を残しており、甲子園史に記録と記憶を残す投球となりました。智弁和歌山の投手陣も投球の65%を外角に集める制球力と粘りで、この試合を大いに盛り上げてくれた貢献者であることを記しておきましょう。鳥越規央 プロフィール
統計学者/江戸川大学客員教授
「セイバーメトリクス」(※野球等において、選手データを統計学的見地から客観的に分析し、評価や戦略を立てる際に活用する分析方法)の日本での第一人者。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、テレビ・ラジオ番組の監修などエンターテインメント業界でも活躍。JAPAN MENSAの会員。一般社団法人日本セイバーメトリクス協会会長。

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