人はなぜ「借金の連鎖」に組み込まれてしまうのか? 多重債務者のリアル

人生で避けて通れないのが「借金」です。ただ、銀行の融資やカードローンを利用したことはあっても、「街金」を利用したことのある人はなかなかいないのではないでしょうか? 一方で、借金からなかなか抜け出せなくなって街金を利用する多重債務者は、漫画やドラマなどのフィクションで定期的に取り上げられています。

テツクルさんは約20年に渡り街金業を手掛け、こうした多重債務者と渡り合ってきました。8月には彼らとの駆け引きを描いた『ぼく、街金やってます』(KKベストセラーズ)を出版しています。街金業のホンネを聞いた前編インタビューに続き、後編では多重債務者の生々しい実態について迫ります。人はなぜ借金の連鎖に取り込まれてしまうのでしょうか?


「借金慣れ」している人が多い

――テツクルさんが営む街金業は、法定範囲内ですが、銀行などより高めの利息でお金を貸す仕事です。顧客は普通に考えたら「損」な借金をしに来ているわけですが、どんな人が多いのでしょうか?

テツクル(以下同):僕らのところに来るのは、生活費の返済、あるいは会社を経営している人なら(従業員の)給料や業者に支払うお金、つまりは「何かをするため」ではなく、「何かに払うため」のお金が足りない人です。お金がお金を生まず、現状維持をするしかない。

取材に答えるテツクル氏

――それが多重債務者だと。

彼らのうち、ほとんどはお金を借りるルートがふさがってしまった人です。ごくまれにそのルートのたどり方を知らず僕らのところに来る人もいますが、ほとんどの場合は全部閉じてしまっているケースです。銀行への返済が遅れ、友達からも既に借りていて追い込まれている。僕らからお金を借りて親戚に返しているケースすらあります。そうやって、(街金の)お金が必要になってくるのです。

うちの場合は不動産を担保にすることが多いので、不動産を持っている経営者の人が客に多いですね。違う担保のやり方をとっている街金の人もいますが。

まあ、“借金慣れ”している人が僕らのところに来ますね。「初めて街金に来ました」という人の方が少ない。いろんなところで借金を経験しているので、(借金に)全然躊躇(ちゅうちょ)していない。

――このように多重債務に陥る人には、どんな傾向があると感じますか?

細かいお金にルーズな人が多いですね。基本、僕らのところに来る人は、契約書を見ないです。契約自体、20分くらいで終わってしまう。免許証を紛失しているといった、物の管理が出来ていない人も多いです。免許証の番号を見れば再発行の回数がわかるのですが、「10回なくすと(下一桁の番号が)0に戻る」などと言って気にしない人もいるんですよ。「問題が発生したらとりあえず逃げる」「何かあると他人のせいにする」タイプも多いです。

反社を連れてくる債務者

――実際、彼らの多くはちゃんと返済完了にこぎつけられるのでしょうか?

返済が滞って担保を売ってもらうのは最終手段ですが、まあ全体の6~7割がそう(最終手段に)なりますね。担保を売ってお金を返してもらうか、僕らがもらうことで借金をチャラにしたりします。

――滅多にハッピーエンドでは終わらない仕事なのですね。

何とか借金を返してもらって、立ち直って「今は頑張ってます」と連絡をくれる人もいます。借金を本当にきれいに返してくれる人はその後も連絡をくれるし、他の顧客を紹介してくれたりもします。ある経営者は銀行から借りられなくなって、うちから15%の利息で3000万円を借りていきました。ちゃんと3年くらいで元通りに返してくれましたよ。うちも相当儲けさせてもらいましたが、いまだにお中元が(その経営者から)送られてきます。ただ、これはスーパーレアなケースですね。

サラリーマンの顧客も何人かいます。ただ、それなりのポジションの人がうちに来る際は、トラブルが発生してそれを埋めるためにお金を借りに来るケースが多いですね。

――銀行や親族などに表立ってお金を借りられないような、ヤバいトラブルが会社などであったのでしょうね。こうした多重債務者と、日々何を考えながら向き合っているのですか?

僕らも債務者全員のことを毎日考えていたら持たないので、淡々と「今日の利払いは誰と誰」などと、なるべく(気持ちを)切り替えてやっていますね。この仕事は債務者との戦いです。対人業務でやりがいはほぼ感じられません。隠していたお金を見つけて差し出させるとか、新しい法律の知識を身に着けると言った中で、自己満足は感じていますが……。

――逆に厄介な債務者も少なくないようですね。テツクルさんの本の中では、債務者が「反社」、つまりは暴力団のような犯罪組織の人間を連れてきて取り立てに対抗する場面もあります。これだけ世間で暴力団追放が叫ばれている今、まだそんな人がいるのですね。

反社に頼る債務者は、若い人よりも50、60代が多いですね。そういう人が70代の反社の人を連れてきたりします。業界に食い扶持のないおじいちゃん(の反社)が、こういう仕事を引き受けたりします。そういう人は昔のままの頭で、常識が通じなかったりするので面倒くさいですね。

自己破産という選択肢

――なるほど……。万一、借金がかさんで街金の利用を考え始めた人にアドバイスをお願いします。

返済するためのお金、何かを埋めるためのお金を借りることになった人は、既に僕らから借りる前に多重債務に陥っていて、1人で苦しんでいる場合が多いですね。その時は家族に相談してみるべきです。この1歩はとても大きい。本人が苦しみ続ければ結局、家族も苦しめられるので。その(街金に手を出す)手前で家族に相談したりして、気兼ねなく「自己破産」をすればいいと思います。これは権利として認められていることですので。

自己破産の存在は知っていても、自分がその状態までいっていると思っていなかったり、何とかなると思っていたりするような人も多いです。でも、自己破産をやった方がいい場合が実際には多いですね。

――こうして考えると、日本人は借金に対してネガティブなイメージが強い反面、その知識をちゃんと身に着けているとは言い難い気もします。事実上の借金に近い「後払い」や「ツケ」の決済サービスも、若年層を中心に安易に流行っています。

日本人の借金に対する知識の量は、(今後も)変わらないと思いますよ。カモになる人はいると思います。本当は最低限の知識が無いといけないのですが。

後払い系のサービスは最近多いですね。あれは借金と同じなのに、そういうイメージを持たせないのはずるい。みんな(借金に近いことを)理解しなくてはいけないけれど、僕からするとうらやましいサービスです。どんどん(返すべき)お金が増えていく。やっていることは「借金」なのですから。

――最後に、街金にお金を本当に借りなくてはいけなくなった人への助言をお願いします。

仮にそういう状況に陥ったら、僕の本を読んで「街金」というものについて理解した上で、連絡ください。もし来たら、本気で(お金の貸し借りは)やりますよ。

ただ、こちらもニコニコした状態で(融資と返済が)終わることもありますから(笑)。契約の際は、僕はいつも「借りてくれてありがとう」というスタンスでお見送りをしています。

――とはいえ、できるだけお世話にならないようにしたいです…‥。ありがとうございました。

※「MONEY PLUS」は記事中の行為を推奨していません。

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<著者>
テツクル
池袋北口の風俗ビルに入居する街金ではたらく。投資家から10%で借りたお金を債務者に15%で貸す日々を過ごしている。

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