「ちょっといい」が仇に?老後にしわ寄せがくるお金の使い方

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。

今回の相談者は、充分な生活費があるのになかなか貯まらないという56歳の主婦。支出を見ても、どれも必要で削れないといいますが……。FPの横山光昭氏がお答えします。

老後に向け、もう少し蓄えを増やしておきたいと考えています。夫はあと2年で定年退職ですが、その後、雇用延長ができる見込みです。私自身はパートをしています。家計は夫婦別々に管理しており、夫は住宅ローンや生命保険料、水道光熱費、通信費などの口座引き落とし分の残りから、小遣い分を除き、毎月20万円を生活費に入れてくれています。そこに私のパート代を足して生活費にしているのですが、いつもわずかしか残りません。夫に節約してとは言いにくいですし、自分で管理している部分でどうにか節約していけたらと思うのですが、どの支出を減らせるのか検討もつきません。

〈相談者プロフィール〉
・女性、56歳、既婚(夫:58歳、会社員)、子供はすでに独立
・職業:パート
・毎月の手取り金額:27.8万円
(夫:月20万円を生活費に入れてくれるが手取り額は不明、妻:7.8万円)
・年間の手取りボーナス額:不明
・貯蓄:約1800万円
※今後、約2000万円の退職金が出て、うち1000万円で住宅ローンを完済する予定。

【支出の内訳(妻の管理分)】
・食費:8.8万円
・日用品代:1.2万円
・医療費:0.1万円
・教育費:2.3万円
・交通費:0.3万
・被服費:5.4万円(洋服に気を遣っている)
・交際費:1.2万円
・娯楽費:0.5万円
・嗜好品:0.8万円
・その他:6.5万円(ジム通い、他)


横山:ご相談ありがとうございます。奥様の管理分だけで支出を改善したいということですね。家計全体が見えないと、総合的な家計改善を考えることは難しいのですが、まずは奥様の管理分の中で改善ができないものか、考えてみましょう。

「普通の使い方」を見直す

相談者さんはおそらく「普通の使い方しかしていない」というお気持ちがあるのでしょうが、この“普通”と思っている部分が意外と盲点になっていることがあります。支出の仕方をふり返ってみましょう。

まず、お子さんが独立された後の教育費は、何に使っていらっしゃるでしょうか。食費や被服費の金額を見ると、相談者さんは割と自己投資がお好きなようにも感じます。ジムに通っている、洋服に気遣っているとのことですので、健康増進や美容目的の支出が多いのではないかと思いました。まずはそこが過剰になっていないかを振り返りましょう。

意外と多いのは、「ミネラルウォーターを定期購入している」「この歳だから洋服はかならず百貨店で」などという、こだわりを持つ方。年代的にも生活が落ち着き、ちょっといい暮らし方ができる経済的なゆとりがあるので、今までがんばってきた分、そこにこだわりたくなる人は多いようです。

身の回りの支出をすべて必要であると考えると、削減する部分が見つけられません。強いこだわりは持たずに、客観的に必要なのかそうでないのかを判断していくようにしましょう。

支出を数字で把握し、使いすぎの自覚を

支出状況を数字で把握することは大切です。実際がどういう状況なのかを明らかにするために、支出の記録を3ヵ月だけがんばってみましょう。3ヵ月ほどつければ、自分の傾向などが見えてきます。

自分のお金の使い方が明らかになれば、改善すべきところも見えてきます。例えば教育費と被服費で約8万円使っていることが妥当かどうか。もしかすると、洋服代はこんなに掛けなくても良いのではないかと気がつくかもしれません。逆に、洋服はこれだけないと困るから、教育費の部分を減らしたほうがいいかしら、と考えられるかもしれません。

一円単位ではなく、ある程度大雑把な金額の記録で構わないので、数字で傾向を明らかにしてみましょう。ここから見えてくることは、今後、貯蓄を増やしていくためのヒントにもなると思います。

「ちょっといい生活」にこだわると老後にしわ寄せがくる

子育てが終わり、収入が高い時期に自由な時間が持てると、「今までできなかった、ちょっといい生活をしたい」と考える奥様は、少なくありません。

ある程度の「ちょっといい」でおさまると良いのですが、だんだんとエスカレートし、家計に大きな影響を与えてしまうこともよくあります。自分で気がついてセーブできると良いのですが、それはなかなか難しいことのようです。

「ちょっといい」にこだわり、習慣化してしまうと、貯金ができないばかりか、将来、生活規模の縮小が必要になった時になかなかそれができず、大きな苦労を伴うことになりかねません。「ちょっとよくしたい部分」「支出を絞ってもいい部分」といった視点を持ち、コントロールしていくことが大切です。それができれば生活規模も縮小でき、今後の年金生活でも苦労は少なくてすむでしょう。

世の中には魅力的な物やサービスがありますが、すべて必要、すべてやりたいと考えては、人生のどこかで壁に当たります。将来を見据えつつ、今の生活を楽しむ方法を考えていきたいものです。

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