結婚して幸せになりたかった…家計を任せて騙された女性の傷跡

男女の関係において、「お金」は重要なファクターとなり得ます。お金の使い方、使い道、貯蓄への考え方などは、「価値観の違い」が浮き彫りになるところかもしれません。そして、「お金」が「愛情」と引き替えになる可能性もあるのが、男女の関係ならではなのです。


愛しているからスピード婚をして

サキさん(仮名=以下同・42歳)が、「どうしても結婚したい、子どもがほしい」という思いを抑えかねたのが30代後半になってから。

「親が離婚していたこともあって、結婚願望はほとんどなかったんです。高校を出てから6年、必死にお金をためながら勉強もして大学へ行きました。卒業後は専門職について。好きな仕事だから苦痛ではなかったけど、収入はそれほどよくはなかったですね」

それでも仕事で認められることはうれしかったそうです。女友だちもいたし、週に1度、昔からやりたかったテニススクールに通うのが唯一の趣味で、生活に不満はありませんでした。ところが気づけば30代半ば。周りの女友だちはどんどん結婚していきました。

「友だちが家族の話をするのを聞くと、私自身、“家庭”というものをよく知らないので、温かい家庭を築いてみたいなと思うようになりました。36歳になったときは、このままだと一生、子どもがもてないと焦って……。結婚相談所にも登録して2年くらい活動していたんですが、なかなかこれという人に出会えなかった」

ドラマのような出会い

そんなとき、テニススクールに入ってきた3歳年下の男性と知り合いました。周りの女性が色めき立つほどのイケメンで、なおかつフレンドリーな彼に、サキさんも心が動いたそう。

「だけど私はろくに恋愛もしてきていません。20代のころに短期間つきあった人がふたりほどいただけ。しかもあんなイケメンと恋に落ちるなんて漫画みたいな話があるわけがないと思っていた」

ところがある日、帰り際にみんなでカフェに行き、彼はサキさんの隣にするりと座りました。そして人には聞こえないように「あなたのことがずっと気になっていた」とアプローチしてきたのです。彼女はそんなはずはないと信じられなかったものの、じっと見つめられると体が火照ったといいます。初めての経験でした。

「これが恋愛なんだ、私にもついに春が来たと思いました。つきあうようになっても彼は親切でやさしくて、いつでも私ファーストだったんです。彼から強烈にプロポーズされて、つきあって3ヶ月くらいで結婚しました」

これほどの人にはもう出会えない。彼ほど私を愛してくれる人はいない。自分も彼を誰より愛している。サキさんはそう確信したからこそ、38歳でスピード婚に踏み切ったのです。

信じていたのに…

彼は脱サラして起業、結婚する時点では、仕事もうまくいっているという話でした。

「もともと銀行員だし、起業した会社も金融関係。地道に業績を出しているから絶対に損はさせないというので、私の預貯金は全部彼に預け、家計も任せました。パソコンで家計簿をつけているのを見せてくれることもありましたが、私は彼を信頼していたから、見せなくてもいいよと……」

ところが結婚して半年ほどたったころ、サキさんの会社や自宅にクレジット会社からの督促状が来るようになりました。開封してみるとあちこちからキャッシングをしていることが発覚。

「私、自分のクレジットカードは1枚だけにしていたんです。彼がいろいろなカードを使うより1枚にまとめて、ポイントをうまくためたほうがいいと言うから。あとのカードは彼に預けていました。そこからキャッシングされたんですね」

帰宅した彼に尋ねると、「大丈夫、来月一括で返せるから」という返事。そこでようやく、彼女は疑念を抱いたのです。

「実は結婚してから、ほとんど夫婦の営みがなかったんです。私が子どもをほしがっているのを知っているのに。今日こそチャンスだからと言っても疲れていると拒否されていました。そもそも本当に仕事がうまくいっているのかどうかもわからない。そんなあれこれを思いながら、体中が泡立つようなイヤな予感がしました」

悪い予感は的中、残ったものは

彼女は翌日、午後から代休をとって彼の会社へ行ってみました。それまで会社には行ったことがなかったそうです。

「古いビルの小さな一室に、確かに会社の看板はありました。でも彼はそこにはいなかった。それどころかドアは鍵がかかっていて開かない。管理人さんに尋ねると、賃貸料を滞納したまま逃げたという噂だって」

帰宅すると自宅の賃貸マンションの前に新車が止まっています。助手席に女性が乗っているのが見えました。そしてマンション入り口から出てきたのはサキさんの夫。

「彼が彼女に笑いかけながら、運転席に乗り込むところを、走っていって何してるのよ、と捕まえました。『なに、この車』と言うと、彼はへらへらしながら『買った』って。そして私を振り切って車に乗ると走り去ってしまったんです」

それきり彼は帰ってきませんでした。結局、彼女の預貯金400万円が消え、キャッシングや買い物で1000万円以上を使われていたのです。

「離婚して自己破産もしました。刑事と民事で彼を訴えようとしたんですが、もうその気力が私には残っていなかった」

ある日、マンション前にぼこぼこに壊れた例の新車が置いてありました。彼の仕業です。車は売ることさえできず、廃車にするしかありませんでした。

「今は小さなワンルームマンションで暮らしています。ようやく落ち着いたのはここ1年くらい。私の何がいけなかったのだろうとずっと考えています。一時期は死ぬことばかり考えていました」

愛情が裏切られたショックは大きかったと言います。彼女が悪いわけではありません。愛という弱みにつけ込まれてしまったのではないでしょうか。

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