米国は今年最大の株安、でも日経平均が意外に底堅い理由

8月14日に米ダウ工業株30種平均は800ドル安と今年最大の下げを記録しました。きっかけとなった「長短金利の逆転現象」(逆イールド現象)は、過去においてはその後のリセッション(景気後退)を予見していたことから、警戒ムードが高まっていました。

しかし、当日の日経平均株価は一時400円超えの急落で全面安にさらされながらも、2万円台をキープし、一定の底堅さを示す格好となりました。今後の日本株の動向を分析してみたいと思います。


日経平均はなぜ下げ止まったのか

先々週には、人民元相場が1ドル=7元台に乗せて約11年ぶりの元安水準となりました。直後に米トランプ政権が中国を「為替操作国」に指定し、一段の対立激化の観測が強まる場面もありました。

8月6日早朝の海外先物市場では、日経先物は一時、節目の2万円を割り込み、ミニパニックの様相を見せました。ところが、当日の東京市場では、日経平均は寄り付き直後の2万0,100円近辺を安値に急速に下げ渋り、引け値は2万1,585円でした。

いずれもカギとなったのは、日経平均がPBR(株価純資産倍率)で1.0倍に急接近したことのほか、株価収益率(PER)、配当利回りなどから見た日本株の割安感とみられます。

特に、貿易問題の悪影響が警戒された企業業績は4~6月期決算で想定内の悪化にとどまり、下期の回復期待が維持されていることが明らかになりました。日本株が割安に放置される理由が乏しくなったといえます。

企業決算はすでに底を打った

2008年に起きたリーマン・ショック級の市場混乱や実体経済の悪化を想定すれば、さらなる下値を警戒する必要もあるものの、一連の米中対立に伴う景気や企業業績へのプレッシャーは限定的です。

先週出揃った4~6月期決算で、東証1部上場企業(3月期決算1,475社)について見てみると、前年同期比の減益率は2%強(ソフトバンクグループ除くと11%)でした。通期予想については期初予想に比べ1%程度の下方修正(前期比1%減益)にとどまっています。

これは、外部環境の変化に対する抵抗力が高まっているとみることができます。さらに言えば、昨年10~12月期の2割近い前年同期比減益を底に、相場はすでに改善方向にあることが確認できたといえるのではないでしょうか。

2つの不安要素も過度な警戒は不要?

米国による中国の「為替操作国」指定は、すでに第4弾の追加関税実施を表明している局面では、新たな警戒要因とは見なしづらいと考えます。

米国経済への悪影響を考えると、現実的にはこれ以上の制裁には踏み込めないでしょうし、米国をはじめとする各国の緩和強化の姿勢、財政面での景気対策も期待される状況で、一段の景気減速の可能性は低いと思われます。

また、逆イールドは8月14日の米国株急落の重要なきっかけとはなりましたが、従来パターンと同様の「リセッションの前兆」とは考えづらいとみています。

すでに米連邦準備制度理事会(FRB)は7月に政策金利の引き下げを実施しました。今回は過去のような景気引き締め局面ではないうえ、ドナルド・トランプ大統領の執拗な緩和圧力も手伝い、債券買いブームが異様に加速している中での逆転でした。

そのため、群を抜く良好さを維持している米国のファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)が、突然変調を来たすとの懸念は行き過ぎと判断しています。

過去の利下げ局面を分析すると…

米国が利下げ局面入りしたことは、先行き米景気の下支え役として機能するとみられ、経験則上も日米株価の追い風といえます。

ここで、1983年以降の6局面について日米の株価パターンを探ってみます。初回利下げを100として各回の日経平均、米S&P500を指数化して日足ベースで6局面を平均しました。

米利下げ開始前後の日米株価動向

利下げスタートに向けて日本株が下落しているのは、事前の織り込みによる米金利低下や円高圧力が背景とみられ、足元の日本株の顕著な出遅れ状況ともイメージが重なります。利下げとともに米国株をアウトパフォームしており、今回も日本株の巻き返しが期待できます。

米国金利や円相場も、利下げ開始でやや流れが変化しています。米国の10年債利回りは初回利下げの後も低下基調が継続していますが、徐々に低下に歯止めが掛かっています。

ドル円相場については、直後に円高反応を示すものの、その後は織り込み済みとの反応からか、早晩ドル買い戻しのトレンドに入っていました。これが日本株の見直しの支えとなったとみられますし、今回についても同様の展開を期待しています。

<文:投資調査部 林卓郎>

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