社説(8/19):ダムの防災操作/浸水リスクを認識し備えを

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 洪水の調節機能を担うダムは甚大な豪雨の際、「異常洪水時防災操作」という緊急放流を行うことがある。昨年7月の西日本豪雨でも、この措置がとられた。耳慣れない言葉だが、放流規模が大きいと下流で浸水被害が起きる可能性があり、注意が必要だ。

 ダムは大雨や台風が近づくと事前に放水して水位を下げ、洪水に備える。大雨が降った場合、上流の雨水をダムにとどめつつ、下流で氾濫が起きない量を放水。国土交通省によると、西日本豪雨では国が管理する全国558ダムのうち213ダムでこの洪水調節を行い、被害軽減と抑止に効果を発揮したという。

 異常洪水時防災操作は、大量の雨水がダムに流れ込んだ際の例外的な措置で、ダムがあふれる前に流入分と同程度の量を放水する。堤の最上部にあるゲートの操作設備などが水没し、ダムが制御不能に陥るのを防ぐ。

 堤防を整備した川でも氾濫が懸念されるため、2017年まで10年間の実施例は全国で40回にとどまる。だが西日本豪雨では長時間雨が降り続いた影響で、8ダムが同操作に迫られた。

 愛媛県の肱川(ひじかわ)にある野村ダムと鹿野川ダムも当初は調節機能を維持していたが、同操作で安全とされる基準の最大6倍の量を放水。下流で大規模な浸水被害が発生し、犠牲者も出た。ダムの容量不足や、住民に浸水リスクが十分伝わっていなかったことなど、課題が浮き彫りになった。

 豪雨災害を受けて国の有識者検討会は昨年12月、ダムの運用について提言をまとめ、操作に関する住民への説明、事前放流による貯水容量の拡充といった対応を求めた。

 新たな動きもある。四国地方整備局は愛媛県内の報道機関と協議し異常洪水時防災操作用の連絡網を作り、運用を始めた。想定する操作時刻や放水量は従来も提供してきたが、災害をイメージしやすくしようと被害や被災エリアの情報を加える。連絡は操作の3時間前に届き、報道機関は住民に命を守る行動を促す。

 愛媛に限らず報道機関側も西日本豪雨でクローズアップされるまで、同操作の意味を理解していた人は少なかった。操作情報を住民の避難に結びつける一助となるよう今後、愛媛のような連携を全国に広げるべきだろう。

 東北にある国管理の18ダムは、これまで異常洪水時防災操作の実施例がない。一方で2015年9月に関東・東北豪雨、16年8月末には台風10号豪雨に襲われるなど、東北でも大雨の季節はしばらく続く。念のため用心を。

 東日本大震災で自然の猛威を目の当たりにして、構造物が万能ではないと痛感した人は多いはず。行政はダム機能や情報発信の強化を図り、下流の住民は防災情報に気を付けて早めの行動を心掛けるなど、地域全体で西日本豪雨の教訓を生かしたい。