熱きものを忘れき

 「喉元過ぎれば熱さを忘れる」という。長崎の被爆歌人、故竹山広さんの歌にある。〈孫よわが幼きものよこの国の喉元は熱きものを忘れき〉。忘れてしまった「熱きもの」とは何だろう▲被爆した人の痛みを、自分の痛みのように感じる。そうした心持ちになったことが一度でもあるのか疑わしいが、この国の政府の喉元が忘れたのは、その心かもしれない▲例えば被爆地は、核兵器禁止条約に一刻も早く賛成するよう日本政府に求めるが、非現実的だと政府は切り返す。核兵器の禁止を急ぐとは絵空事だ、と言うに等しかろう▲熱さを忘れたのはこの国だけではないらしい。米国は小型で使いやすい核兵器を開発すると宣言し、ロシアは新型の核兵器を開発すると言い出した。中距離核戦力(INF)をなくそうという米ロ間の約束事は今月初めに失効し、「ちゃら」になった▲こっちを攻撃したら核兵器で報復するぞ、と脅して見せるのが「核抑止」だが、そうやってにらみを利かせるばかりでなく、今は核兵器が使われる可能性が高まり、危うさが増す▲22代目の高校生平和大使が、国連欧州本部へと出発した。21万筆余の核兵器廃絶の署名を提出する。忘れてはならない痛み、「熱きもの」を届ける若い人も、それを支える大人たちも、その役割はますます大きい。(徹)

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