プログラミング教育の最先端の話も! 先生だけの勉強会「WATCHA!?プログラミング」

日本橋にあるサイボウズ社で「WATCHA!?プログラミング」が開催されました。「WATCHA!」とは、もともとTwitterなどで発信力をもっていた、せいめいさん(@m39CwIvCIJjeXj1)の呼びかけで実現した「SNS発、先生のための自由な勉強会」。小中高の先生や教育関係の方が登壇し、またお互いに話し合いを行いました。

プログラミング教育に不安を感じる人が参加したフェス

WATCHA!は(わちゃわちゃする)という言葉から来ています。2018年3月に京都で行われた第一回のイベントでは100人を超える来場者がありました。2019年3月31日に行われた第二回の東京では、ふたせんさん(@kesuke03)がプロデュースをし、Twitterを活用する教員の間で市民権を得るようになりました。今回は今までのWATCHA!と少し趣が違うため、WATCHA!?と名付けています。

過去に行われた、京都、東京、福岡、大阪、名古屋などのイベントでは「学級通信での学級運営」についてや、教育に対しての熱い想い、生徒に対して実践していることを発表するなど「何かに内容を限定する」ということは少なかったのですが、今回は小学校教員である「すずすけ」さんのTwitterでのつぶやき「プログラミング教育に不安を感じる人が参加できるフェスを開きたい」という声に、たまたまつながっていたkintoneの方が反応し、あっという間に今回のイベント「WATCHA!?プログラミング」を開催する運びとなりました。

当日は、プログラミング教育関連のイベントでよく登壇される有名な方がスピーチするなど、最先端のプログラミング教育について学べました。ここでは中でもとくに参考になった「みんなのコード」代表の利根川裕太さん、「未踏ジュニア」代表の鵜飼佑さんの話を紹介します。

プログラミング教育で自己解決能力を高めてほしい

●みんなのコード代表・利根川裕太さん

普段生活している中で、気づいた身の回りの不便なことや課題。それらをパソコンを使って自ら解決する能力を身につけてほしい——。そう語ったのは、非営利団体「みんなのコード」代表理事の利根川裕太さんです。

「みんなのコード」は、2020年に控えたプログラミング教育の必修化に向けて、企業や行政と共に学校の先生へ支援を行っている団体で、北海道や沖縄など56の自治体と連携して支援しています。元小学校教員であったり元企業のプログラマーであったりと、さまざまな人が参加しています。また「プログル」というプログラミング教材の提供をしています。

そのみんなのコードの理念が「子どもたちがデジタルの価値創造者となることで、次の世界を創っていく」というものです。このデジタルの価値の創造者がどういうものかという例として4つの具体例を挙げています。

  • 利根川さんはラクスルにいたとき、縮小傾向にあった印刷業界に対して、デジタルの「シェアリングエコノミーシステム」を構築した。それは、ユーザーがより手軽に低コストで印刷を頼みやすくなるサービスで、印刷タスクが少ない会社がその仕事を受注できるシステム。
  • 世界一有名なコンピューターおばあちゃんの若宮正子さん。パソコン教室でエクセルを学ぶも「つまらない」とエクセルアートをはじめたり、自分が遊べるゲームがないからと、ひな壇を並べ替えるスマホゲームを作ったことで世界的に有名になり、80代にしてAppleの開発者の祭典「WWDC2017」に呼ばれたり、国連のシニアIT会議で基調講演を頼まれるほどになった。
  • 大阪の高校生の西村 惟さん。クラスの掃除当番表がズルされたり忘れられることに不便を感じ、LINE Messaging APIのLIFEを使って自動通知するシステムを構築。他のクラスや学校の人にも便利だと使われるようになり、なんと大人も参加しているLINE BOOT AWARD 2018を受賞することに。
  • メルカリを立ち上げた小泉文明さんは、中学生当時、通っていた中学校のパソコン教室にあるMacが自由に使えたことでコンピューターグラフィックやゲームを作って遊んでいた。その後大学でネット通販と開始、大学卒業後も大和証券やMixiなどIT×ビジネスの経歴を重ね、「そのままだと捨てられてしまうものをテクノロジーで再利用するアプリ」(メルカリ)を開発した。

この4つの例の共通点は「身の回りの困ったことをプログラムやシステムで解決して、それが周りの人の助けにもなっている」ことです。このように、課題を自分で解決していく能力を増やすことがプログラミング教育をやる必然性の根っこにあるのではないか、と利根川さんはいいます。

プログラミング教育をなぜやるのか、という大きな問について、『小学校プログラミング教育の手引き』には3つのねらいが書かれています。1.プログラミング的思考を育む、2.プログラムやコンピューターなどの有用性に気づき、コンピューターを使って課題解決や社会をよくしようという態度を育む、3.教科の学びを深める。この2は説明が難しいですが、先ほど挙げた具体例を思い出して、“自分や周りの不便なことなどを、プログラムを通して解決してみること”と考えると説明がしやすいと思います」(利根川さん)

やってみてわかる「プログラミングは楽しい!」

「プログラミング教育」と聞くと難しい印象があるかもしれませんが、車の運転や水泳と一緒で、座学で聞いてもわかりづらいものです。まずはやってみてほしい。いじることで理解が深まる。それを、楽しんでそれを子どもや先生に教えてみて、楽しいから次をやってみるっていう流れが大事で、いじる、楽しむを繰り返していると、いつの間にか周りを巻き込んでいたり、たよりにされたりするので、まずは飛び込んでほしいです」(利根川さん)

自分のアイデアを実現するクリエイターを増やすにはどうしたらいいか

●未踏ジュニア代表・鵜飼佑さん

「やっていたら時間を忘れる」「中毒性がある」「やればやるほどおもしろくなっていく」「しかもお金がかからない」これらが当てはまるものが「プログラミング」なんです、と未踏ジュニア代表の鵜飼さんは言います。

「未踏ジュニア」は17歳以下の小中高生、高専生のプログラミングを応援する団体。子どもたちが「作りたい」「コレを作ったら周りの役に立つかも」と自由に発想したアイデアを、大人が全力で支援しています。日本トップのプログラマーやPMからアドバイスがもらえたり、50万円という開発資金を調達できます。先ほどの「みんなのコード」の利根川さんの話にもでてきた、LINE BOOT AWARD 2018で優勝した西村さんも未踏ジュニア出身です。

未踏ジュニアに参加したことは受験でも活躍できるようになってきていて、慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス(SFC)ではAO入試の対象コンテストに追加されています。首都大学東京(東京都立大学)では、2021年から「システムデザイン学部情報学科」のオリンピック入試の対象コンテストにも指定されました。オリンピック入試とは、「全国物理コンテスト 物理チャレンジ」「化学グランプリ」「日本生物学オリンピック」など、規定のコンテストで優秀な成績を修めた生徒を対象に実施するAO入試です。

未踏ジュニアの運営やアドバイスをしてくれる大人はすべてボランティアで活動しています。そこまでして未踏ジュニアに力を入れたくなる理由として、鵜飼さんは「プログラミングが文章を書くように難しいから」といいます。

アイデアがあってデザインがあって、実際にプログラミングをしてリリースをするまでを一人でできる。そしてプログラミングを使ってアイデアを実現していく、これを全部一人で回すのがとてもおもしろい。こういったことをするクリエイターを増やすことを、人生のミッションとして取り組んでいるそうです。

鵜飼さんは、水中ロボットを用いた水泳教育支援システムの研究開発を行っていました。2011年に情報処理推進機構から「未踏」のスーパークリエータに認定されています。「未踏」とは、「未踏ジュニア」の元になった団体で、25歳以下なら参加ができ、より高額な研究資金も提供できる団体です。

その後マイクロソフトのシアトルにあるオフィスやマインクラフトエデュケーション開発チームにてプログラムマネージャを4年間務め、Office Lensや、「Minecraft: Education Edition」のプログラミング機能であるCode Builder(ゲームの中でコーディングができる機能)、Code.orgとの共同プロジェクト「Minecraft Hour of Code(キャラクターが作れる機能)」の開発にも携わりました。現在は、文部科学省プログラミング教育のプロジェクトオフィサーに就任しています。

今開催しているコンテストに「Minecraft Cup」があります。プログラミングの要素が入ったマインクラフト作品が応募できるもので、15歳以下3名以上30名以内のチームで参加します。普通だと、学校の授業でなければ使うことのできない「Minecraft Education Edition」を使えるので、ぜひ参加してほしいとのこと。

マインクラフトは、作ったものを自慢できるのがおもしろい。YouTubeで作品を発表したり公開したりしている人が増えたため人気が出ましたが、このコンテストでも、プログラミングしたオリジナル作品を公開してくれることを期待しています」(鵜飼さん)

プログラムについての議論の場を提供したい

“どうやってプログラムを書けばコンピューターは理解してくれるのか”という勉強は自分でできたり、プログラム教室など、学べる機会は多いですし、比較的教えやすいのですが、“どんなプログラミングなら人に伝わるのか、他の人が幸せになるのか””何をつくったらいいか”という議論ができる場はなかなかなく、学校の友達ともあまりしないようです。未踏ジュニアができる前に「未踏」に参加した子どもも、プログラミングは元々出来ていましたが「何を作ればいいか」という発想を議論する場がなかったようで、「未踏」で大人に混じって議論ができたことでかなり伸びたのが印象的でした。なので、未踏ジュニアではプログラミングは一切教えていません。それよりも「何を作りたいか、どうしたいか」という発想を大切にしています」(鵜飼さん)

生きたプログラミング教育も予定

文科省の「未来の学びプログラミング教育推進月間」についても紹介していました。2019年9月の「総合の時間」で実施される予定のこの取組は「ただ学校でプログラミングを学ぼうとしても、実社会から切り離されたものになってしまうので、企業を巻き込み社会の中でテクノロジーがどう使われているのかを感じながらプログラミングをしてみよう」という試みです。実際に18の企業が参加予定で、たとえばモバゲーや球団運営などで有名なDeNAは、「一緒に地域の商店街の魅力を発信・伝えるアプリを作って地域活性化をしてみよう」として、35時間(プログラミングは4、5時間)で構成された授業を予定しています。

よりプログラミングと触れ合える場所が増えてほしい

鵜飼さんは「教育課程外での取り組みを盛り上げることが大事」といいます。

大事なのは学校でプログラミングを学んだあと。プログラミングを楽しいと思った子がさらに学んだり同世代や先輩と議論できるような教室や団体などが日本中にあれば、そのなかから世界に通用するすごいプログラマーが出てきてくれるのではないかと期待しています。それこそ日本中にあるプール教室のように、気軽に行けるようなところに将来増えてくれることを期待しています」(鵜飼さん)

先生の実体験談も

イベントでは、小学校の先生「すずすけさん」が実際にプログラミングの授業をしてみてどうだったか、学校内のインフルエンサーになりどうやって周りを巻き込んでいったかなどのプレゼンテーションがあったり、IT企業に勤めている保護者の視点からみたプログラミング教育についてのプレゼンテーションが行われていたほか、実際にプログラミング教育で使うソフト「Scratch」や「VISCUIT」、業務で使うソフトですが教育でも使える「kintone」を体験できるワークショップがあったり、展示ブースでは(TFabWorks、フォレスタネット、株式会社ナリカ、アーテックロボ・アリロ、embot、ねこリンピックなど)が展示したりしていて、賑わっていました。

kintoneのワークショップブースの様子
プログラミング自習室では実際にプログラミング体験ができた

WATCHA!は定期的に教員、教員志望向けのイベントをしていますが、プログラミングに内容を限定しているわけではありません。「やりたい!」という声で自由に開催できるので、プログラミングイベントに興味のある先生はSNS経由でつぶやいてみるといいかもしれません。

子どもがプログラミングやプログラミング的教育を学びやすい環境を整えるためには、まず先生の支援が大切なんだなと思いました。「プログラミング教育」は、先生にとっても大きな出来事です。どのように取り組んだらいいのかと戸惑っている先生に対して「みんなのコード」「未踏ジュニア」などの支援団体があったり、このようなイベントがあることは、先生にとって大きな助けになるのではと感じました。このような先生向けイベントが今後も増えていくといいですね。

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