シベリア出身の3人がなぜ毎年、箱根でガラス楽器を演奏するのか

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太田清

共同通信大阪支社統括整理部長

太田清

共同通信大阪支社統括整理部長

共同通信社入社後、広島支局、大阪社会部、外信部、経済部、ベオグラード支局、モスクワ支局、ローマ支局、47NEWS編集長などを経て2019年10月より現職。イトマン事件、阪神大震災、コソボ紛争、ユーゴ空爆、モスクワ劇場占拠、アフガン紛争、ギリシャ財政危機、東日本大震災などを取材。

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グラスハープに使われるグラス

 神奈川県箱根町にあるベネチアン・グラスの美術館「箱根ガラスの森美術館」。2003年から一部の年を除き毎夏、3人のロシアのガラス楽器演奏グループが来日、同美術館でガラスを使った涼しげな音色を奏でている。3人はともにシベリア出身。日本から遠く離れた同地方の演奏家がなぜ、毎年箱根で演奏するようになったのか。取材した。 (共同通信=太田清)

 ▽リピーターも 

 今年のコンサートは7月13日から9月1日(毎週水曜休演)まで、毎日5回行われる。各回、レパートリーを変えて演奏されるが筆者が取材した8月17日は「G線上のアリア」「白鳥の湖」などクラシック音楽のほか、日本の唱歌「故郷」、歌謡曲「少年時代」も演奏され、立ち見も出るなど多くの観客が訪れた美術館大ホールは大きな拍手に包まれた。広報マネージャーの坂元宏彰さんによると、毎回好評で、同グループの曲を聴くためにこの時期に美術館を繰り返し訪れる「リピーター客」も多いという。 

演奏するスクリャロフさん

 グループは、大小35個のグラスの縁を水で濡らした指でこすることで、ガラスを振動させ音を出す「グラスハープ」(高音)のイーゴリ・スクリャロフさん(53)、長さの異なる33本のガラス管の縁をこする「ベロフォン」(中音)のウラジーミル・ポプラスさん(54)、ガラス製の管に息を吹き込む「グラスパンフルート」(低音)のウラジーミル・ペルミノフさん(57)。それぞれ楽器は違うがガラスを素材にした器具を使うことは共通していて、グループも「フルスタリノエ・トリオ」(クリスタルガラスの3人)と名付けた。 

 ▽世界的に活躍 

 リーダーのスクリャロフさんとペルミノフさんはアルタイ地方バルナウル、ポプラスさんはイルクーツク州ブラツクといずれもシベリア出身。それぞれノボシビルスク州のグリンカ音楽院で民族楽器「バヤン」(ロシア式アコーディオン)演奏などを学び、バヤン奏者などとして活躍していたが1998年、スクリャロフさんが友人からグラスハープを紹介されすぐに気に入り演奏を開始。当初は市販のグラスを使用していたが、高価だったもののドイツの職人がグラスハープ用に製造したグラスを購入、活動を本格化させた。 

ポプラスさん

 その後、スクリャロフさんが故郷や音楽院の縁でほかのメンバーを誘いグループを結成。ガラス楽器の世界で人気を博し、モスクワのボリショイ劇場などでも演奏。これまでにロシア各地のほかイタリアや米国などでも公演を行うなど世界的にも活躍してきたという。 

 ▽独学

 ガラスの森美術館との縁は、同美術館のベネチア駐在員が公演で同地を訪れたグループに目を付け、「涼しげなガラスの演奏は夏の公演にぴったりだし、ベネチアン・グラスの美術館との施設の趣旨にも合致している」と日本に招待したのがきっかけ。以来、15年以上にわたり日本を訪れ、コンサートは同美術館の夏の風物詩ともなっている。 

 感心するのが3人とも、ガラス楽器演奏で専門の音楽教育を受けていないこと。「誰も教えてくれる人はなく、すべて独学で学んだ」(スクリャロフさん)にも関わらずこれだけの高い技術を習得したのには恐れ入るばかりだ。「日本人は勤勉で謙虚。自然に囲まれた箱根も気に入っている」と、これからも招待がある限り日本公演を続けたいとしている。 

 グラスハープは欧州で一時期人気となり、ベートーベンやモーツァルトらがこの楽器のために作曲。王宮や貴族の館など、上流階級の観客も対象に演奏されてきたが、グラスが高価なことに加え、壊れやすいなど扱いも難しく徐々に廃れてきた。しかし、一部演奏家の活躍により、20世紀末から改めてその価値が見直されてきているという。