受け継ぐべき記憶

 佐世保市針尾北町のかつて浦頭検疫所があった場所にこの夏、供養塔が完成した。横には、小さな地蔵菩薩がまつられている▲浦頭には終戦後、海外から139万6468人が引き揚げてきた。約3800人が船内で、または検疫中に亡くなった。火葬場だけでは対応できず、検疫所の敷地内に簡素な穴を掘ってだびに付した。祖国を前に感染症などにより、無言の帰国をした人も戦争の被害者だろう▲「遺体は動物のように扱われていた」。当時9歳で近くに住んでいた森川普さん(83)は焼却される光景を今も鮮明に覚えている▲森川さんは約30年前、検疫所の跡地に地蔵菩薩を立て、正月やお盆に餅や果物、酒を供えてきた。地元住民もこの事実をほとんど知らなかったため、供養は1人で続けてきた▲しかしまつっていた建屋は老朽化してしまった。森川さんから相談を受けた地元の針尾地区自治協議会が市の補助を受けて供養塔を設置。地蔵菩薩も移設され、今月11日には地元住民が参列して初めて慰霊祭が営まれた。森川さんは声を詰まらせてお礼を述べた▲戦争は8月15日に終わったが、その後の引き揚げでも数知れない悲劇をもたらした。供養塔の近くには、浦頭引揚記念資料館もある。戦争が何をもたらすのか考え、記憶を引き継いでいきたい。(明)

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