知事選が25日に投開票される埼玉県では連日の猛暑の中、外出を控えるよう呼び掛ける防災無線と、投票に行くよう勧める選挙管理委員会の訴えが交差している。毎回真夏の知事選となる埼玉では恒例の光景だ。暑さのせいもあってか、過去3回は投票率が20%台と低迷し、2011年には知事選史上最低投票率も記録した。選管は関心を呼び起こそうと必死だが、今回は「ださいたま」な低投票率から抜け出せるか。(共同通信=沢田和樹)
▽酷暑の選挙戦
「本当に暑い中、皆さんにお集まりいただき…」。街頭で支持を呼び掛ける候補者のあいさつは、大抵この一言から始まる。陣営関係者も支援者も噴き出す汗をぬぐいながらの選挙戦で、屋外での集会中に具合が悪くなり、救急搬送された人もいた。
昨夏、熊谷市で国内観測史上最高の41・1度を記録し、酷暑で知られる埼玉。03年に当時の土屋義彦知事が、長女の政治資金規正法違反事件で任期途中の7月に引責辞職して以降、埼玉では真夏に知事選が実施されることとなった。
上田清司知事は6日の記者会見で、過去の選挙戦を振り返り「選管の車が『投票に行こう』と言う以上に、防災無線は『暑いので外に出ないで』と言う。何と不可思議な光景か。本当に時期が悪い」と嘆いた。
▽「翔んで埼玉」
「埼玉県民には…! 投票に行かせておけ!!」。埼玉をからかうように描きつつ、郷土愛もにじませる人気漫画「翔んで埼玉」の主人公が絶叫するポスター。大ヒットした実写映画版でも注目された名ぜりふ「埼玉県人にはそこらへんの草でも食わせておけ!」にちなみ、県選管が8570部を作成、県内86カ所の駅のほか、学校、役所などに掲示した。
投票率が特に低い若者にインパクトを与えるのが狙いだ。キャラクターが「海はない…空港もない…だが選挙権はある!」「無関心はださいたま!」と挑発する動画も作り、ユーチューブや県内を走る電車のモニターなどで公開している。
総務省によると、全国の知事選の最低投票率は11年埼玉県知事選の24・89%。ワースト5のうち三つが埼玉だ。
埼玉は県外からの転入者が多く、日中に通勤・通学で県外に出る人の割合も全国一高い。東京に通う人の多さから「埼玉都民」と呼ばれることもある。選管は地域への愛着の薄さが投票率低迷の一因と分析し「まずは埼玉に関心を持って」と訴える。他にも、ショッピングセンター内をはじめ、期日前投票所を前回比30カ所増やす環境整備にも取り組んだ。
埼玉大社会調査研究センターの松本正生教授は「そもそも選挙期間中だと知っている人がどれだけいるか疑問だ」と話し、選管の取り組みを「即効性のある施策はどんどんやったほうが良い」と評価する。一方、「若者に届かず、結局盛り上がっているのはメディアと中高年だけということにならなければ良いが…」と一抹の懸念も示した。
▽絶好の機会
今回は選挙期間と盆休みが重なった。強力な集票力を持つ団体の幹部も「呼び掛ける相手が休み中でなかなか活動できなかった」と苦笑い。4月の統一地方選、7月の参院選と続き、有権者の選挙疲れも懸念材料だ。
松本教授は、低投票率が続くと有権者は「みんなも関心がないんだな」と感じ、ますます投票から遠ざかってしまうと指摘する。そうなれば候補者は、必ず投票に行ってくれる支援者などの「固定客」へ向けた訴えを強化し、しらけた他の有権者はさらに関心を失う悪循環になる可能性があるという。
選挙戦で目立った争点はないが、4度の知事選で圧勝を続けてきた上田氏が立候補せず、16年ぶりに新人の争いとなった。事実上、参院選後初の与野党対決の構図で、消費増税後初の国政選挙となる10月の参院埼玉選挙区補欠選挙の前哨戦という意味合いもある。松本教授は投票率を上げるには絶好の機会だとして「自分の1票で新たな知事が選ばれるということを意識し、多くの人に参加してほしい」と語った。
▽知事選投票率ワースト5
1位 埼玉県(2011年)24・89%
2位 千葉県(1981年)25・38%
3位 埼玉県(2015年)26・63%
4位 広島県(2005年)27・14%
5位 埼玉県(2007年)27・67%