【世界から】教育ローン1億円超も 米、〝異常〟なまでに高騰する大学学費

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「学生の借金を終わらせろ」などのプラカードを掲げ民主党のサンダース上院議員を支持する人々=2016年5月26日、カリフォルニア州(AP=共同)

 日本では大学生の2人に1人が利用しているとされる奨学金。返済に苦しんだり、中には行き詰まって破産する人が増加するなど社会問題化している。米国でも同様で、大学に通うかなりの学生が学費の一部、あるいは全てを自分で賄っている。といっても、この間まで高校生だった若者が十分にお金を持っているというわけではもちろんない。大半の学生は教育ローン、つまり借金をして学費に充てることになる。卒業後に働いて返すわけだが、米国ではごく一般的なことで、統計などによると2018年に大学や大学院を卒業した人のおよそ7割が何らかの教育ローンを抱えているという。

▼高騰する学費

 米国の大学の授業料は非常に高い。私立大学では年間平均約3万3千ドル(日本円で約350万円)、州立大などでも約9600ドル(同約100万円)が必要になる(ちなみに30年前は私立で1万5千ドル、公立3千190ドルだった)。ハーバード大やコロンビア大などで構成する「アイビーリーグ」などの名門校はさらに高額だ。もちろん、これは授業料のみ。下宿代や食費は別だ。それらの費用は安く上げても年間1万ドル(同約100万円)は下らないだろう。都市部の私立大学では日本円に換算すると年間約400万円以上が必要で、一般家庭には相当の負担になる。日本に目を転じると、大学生の1年間にかかる費用は平均156・9万円(日本政策金融公庫調べ)。これには学費に加え、学費や教科書代などを含んでいる。米国の大学生がいかに多くの負担を強いられているかが分かる。

 あまりに高い学業コストは親の援助では追いつかず、米国の大学生の多くは何らかの借金をすることになる。ローンには大きく分けて(1)連邦政府が提供するもの(2)銀行などの教育ローンなど―があり、金利も返済期間もさまざまだ。

  15年に発表された連邦準備銀行の統計によれば、16年に大学を卒業予定だったローン利用者の平均借入額は約3万7千ドル(同約390万円)だという。連邦政府のローンを使い、金利を約7%と仮定して完済まで20年と想定すると、返済額は月約300ドル(同約3万2千円)となる。そして、やっと返済が終わる時は40代半ばになっているケースも珍しくない。

 大学院に行く場合、生活はさらに圧迫される。ビジネススクール(経営大学院)の年間学費は4万~6万ドル(同約424万~636万円)。全てをローンで賄えば、卒業する頃には10万ドル(同約1060万円)近い借金を背負う。これに大学時代のローンが加われば、毎月の支払いは約1千ドル(同約10万6千円)を超える。さらに、学位を取ったからといって職が保証されるわけではない。米国では業績の上がらない社員はすぐにクビを切られる。そうなったら直ちに返済が滞ってしまう。

大学のキャンパスで楽しそうにくつろいでいる学生たち。だが、多くの学生が返済しなければならない重いローンを背負っている

▼破産が認められないローン

 そんな状況では破産するしかない―。そうと思ったとしても、米国の教育ローンにおいては破産という最後の手段に訴えることが極めて難しい。住宅などのローンと異なり、病気その他で最低限の生活費さえままならないなどといったような「不当なまでに困難な状況」にあることを証明できない限り、教育ローンを理由とした破産は認められないのだ。

 昨年、「ウォールストリート・ジャーナル」に教育ローンに苦しむ歯科矯正医師の記事が掲載され、全米にちょっとした衝撃を与えた。37歳のこの歯科医はエリート大の歯学部を卒業し、第一線で活躍する医師だが、その過程で106万ドル(同約1億1千200万円)もの学費ローンを抱えることになってしまった。医師という立場では「不当なまでに困難な状況」からはほど遠く破産は不可能。それゆえ、一生涯借金のために働き続けるしかないのだ。利子も払いきれない状況で、借金は毎日130ドル(同約1万4千円)ずつ増えているという。これはあまりに極端な例だが、教育省の発表によれば、10万ドル(同約1060万円)以上の教育ローンを抱える人は全米で約250万人に上るという。この事実はもう「異常」としか表現できない。

▼膨らみ続ける貸付額

 教育ローンの利用状況を全米規模で見てみると、その異常さがさらに際立つ。現在ローンを返済中の人は現役学生を含めおよそ4400万人、実に米国人の7人に1人がローンを抱えていることになる。その総額は19年現在1兆6千億ドル(同約170兆円)にまで膨れ上がっている。この数字は米国人のクレジットカードの借金総額を上回り、米国の国内総生産(GDP)の7・5%に迫るほどだ。もっとも、これには子供のために学費を借りた親も含まれるが、米国人の肩にのしかかる教育ローンの重さがいかほどかは理解できるだろう。米国家庭の借金の中で教育ローンが占める割合は、住宅ローンに次いで大きいのだ。

 厳しい状況の中、支払いができなくなる元学生の債務者は後を絶たない。シンクタンクの「ブルッキングインスティテュート」は昨年、04年に教育ローンを借りた人々の40%が23年までに債務不履行に陥るだろうという予想を発表した。

 こうなってくると、高額の借金を背負ってまで大学教育を受けることに意味があるのか、という疑問が浮かんでくる。17年の米国労働統計局の発表では、高校卒業者の週給の中央値は712ドル(同約7万5千円)、大学卒業者が1173ドル(同約12万円)だという。相応の差はあるものの、教育ローンの支払いを考えると実質収入では逆転も起こりかねない。

 ニュースサイト「ビジネスインサイダー」の調査によると、教育ローンを借りて大学を卒業した20代の若者の21%が「まったく価値に見合わなかった」、23%が「恐らく価値に見合わなかった」と答えている。あまりに高額になった米国の教育環境は、プラクティカル(実用的)な米国人にとって、納得のいく費用対効果をもたらしてくれなくなりつつある。(東京在住ジャーナリスト、岩下慶一=共同通信特約)