佐世保へのクルーズ船 寄港増加も地元消費低迷

©株式会社長崎新聞社

港に到着後、大型バスに乗り込むクルーズ船の乗客ら=7月31日、佐世保港

 近年、長崎県、佐世保へのクルーズ船寄港は増えたが、地元が期待するほどはお金が落ちていない。無料施設を巡り、免税店で買い物をするツアーが定番となっているのが主な理由だ。背景には「寄港地観光を主催する権利」を、業者(ランドオペレーター)に販売する中国のビジネスモデルがあった。クルーズ観光の現状を探った。

 ■県外の店へ

 7月31日朝。佐世保港にコスタ・セレーナ(11万4000トン)が入った。ほとんどが中国人の約3700人は、すぐに90台を超える大型バスに乗り込んで出発。どこに向かっているのか調べるため、車列を追い掛けた。
 多くのバスがまず向かったのは、九十九島を一望できる展海峰だった。駐車場はバスでごった返していた。観光客は30分ほど景色を楽しんだ。
 バスは、佐賀県有田町にある有田焼のテーマパーク、有田ポーセリンパークへ。お目当ては磁器ではなく免税店。観光客はドラッグストアでマスクや化粧品、サプリメントを購入していた。かご一杯に商品を詰め込む人は少数。「爆買い」の光景はなかった。
 ほかの乗客も諫早市や大村市の免税店に行っていた。九十九島水族館(海きらら)や九十九島動植物園(森きらら)といった有料の観光施設を訪れた人は、わずかだった。船はこの日の夕方、中国・天津に向け出航した。

 ■低い周遊率

 佐世保市の調査によると、2017年度にクルーズ船の乗客が市内の商店街や観光施設を周遊した割合は37.1%。市は1人当たりの市内での消費額を約1万千円と試算している。18年度は58.6%に上がったが、依然として低い。
 地元の商店街はクルーズ船誘致に伴う経済効果を実感できていない。させぼ四ケ町商店街協同組合の川尻章稔理事長は「寄港数の割に、商店街では外国人観光客の姿が見えない。何かを買っているイメージもあまりない」と語った。
 周遊しない要因は中国のビジネスモデルにある。中国の旅行会社は多くの場合、船会社から「寄港地観光を主催する権利」も購入。これを、バスやガイドを手配するランドオペレーターに販売している。
 ランドオペレーターは、免税店からのキックバック(売り上げ割り戻し)で利益を確保している。このため周遊ルートには免税店が組み込まれる。旅行者は安い料金で日本への船旅を楽しめるが、寄港先では行動範囲が限定される。

 ■改善を模索

 しかも中国からのクルーズ船は団体旅行客が多く、自由に行動できる個人旅行者の割合は全体の数%にとどまる。
 通販大手、ジャパネットホールディングス(佐世保市)の関連会社が手掛けるクルーズ船は今年5月、佐世保に初めて寄港した。乗客の多くは個人旅行の日本人。入港日には市中心部の商店街などを巡る姿が見られた。ただ、リピーターが多いことなどを理由に、20年は佐世保に寄港しないことを決めている。
 市によると、船会社も現状の改善を考え始めているという。市は、中国の旅行会社の関係者を招き、観光施設を巡ってもらう事業を計画。旅行商品に真珠の玉出しなど市内での体験メニューを加えてもらえるよう働き掛ける。
 全国の寄港地は同じ課題を抱えている。市観光課クルーズ船寄港地観光開発室は「港の認知度を高めるために、寄港数を増やすことは必要。今後は旅行の成熟度を高め、現状を変化させる手を打ち続けたい」としている。

 ■中国発着が8割超

 2018年度に佐世保へ寄港したクルーズ船は98隻に上り、このうち8割を超える84隻が上海や天津、大連など中国を発着していた。主に3泊4日か4泊5日の旅程。市場規模が大きい中国からの寄港は、今後も続くとみられる。
 市観光課クルーズ船寄港地観光開発室によると、17年度は89隻中83隻、16年度は77隻中65隻と、中国発着のクルーズ船はいずれも全体の8~9割を占めた。
 多くの乗客が立ち寄る展海峰にある軽食店の店主、中里竜也さん(39)は、市内での観光消費を促すには「広い駐車場は必要不可欠」と強調する。乗客は、多いときには100台近いバスで移動するが、受け皿となる場所が市内には少ないという。
 自らの経験を踏まえ、中国人は待つことを嫌うことも注意点に挙げる。中里さんの店も短時間で提供できる商品を心掛けているという。「中国人の感覚を理解した上で商売をしないといけない」と語った。