丸ノ内線の丸顔電車を定番ポイントで撮る

2000系電車の顔。56歳の筆者は、1980年代に流行した小さな珍獣「ウーパールーパー」を連想してしまう。

 【汐留鉄道倶楽部】東京の中心部をコの字形に走る東京地下鉄(東京メトロ)丸ノ内線に2000系が導入されたのは今年2月。通勤途中の赤坂見附駅でちらりと見たことはあったが、「撮り鉄」としてカメラを向けたことはなかった。7月に6両編成の直通運転が始まった方南町駅の訪問も兼ねて、新型電車の撮影に出掛けた。

 丸ノ内線は全駅にホームドアが設置されていて「駅撮り」は難しく、足は自然と地上区間の定番撮影地に向かった。まずは四ツ谷駅周辺。丸ノ内線の同駅はJRの中央・総武線を跨ぐような位置にあり、赤坂見附寄りのトンネルの出入り口からホームまでの間が格好の撮影ポイントだ。改札を出て外堀通りを少し歩き、迎賓館を背にして線路を見下ろせる広い歩道上に陣取った。

 丸ノ内線は車両の屋根にパンタグラフがない「第三軌条方式」で集電しているため架線や架線柱もなく、すっきりと視界が開ける。周辺には木々の緑も多く、東京のど真ん中でこれだけ好条件の撮影地があるのはほとんど奇跡と言えそうだ。

 2000系はまだ少数派だが、ネット上に「運用情報」が公開されており、形式別の現在位置が容易に把握できるのはうれしい。「グローイング・スカーレット」の真っ赤なボディーと、「丸顔」を印象づけるフロントガラスの黒い楕円状の縁取りが鮮やかなコントラストを描いている。

 丸ノ内線伝統の白い帯状のサインウェーブは窓の上部を走っており、これならホームドアに遮られることはない。各車両の車端部の優先席のところにある「丸窓」はホームドアで半分近く隠れてしまうのが残念だが、この場所からはばっちり見えた。

 定番ポイントでの撮影は、事前に作例を見て頭にインプットされた構図を再現する作業とも言える。それではつまらない、誰が撮っても同じという声が聞こえてきそうだが、写真の腕前にかかわらず、目の前に列車が来るまでのワクワク感を味わいながら、外れのない1枚をものにできるのがいい。

(上)四ツ谷駅近くの定番撮影地から。今後は数を減らしていく02系(左)がファンの注目を集めることだろう、(下)御茶ノ水駅付近で。後方の鉄橋を総武線の電車が通過していたら完璧だったのに…。

 次に向かったのは超有名撮影地の御茶ノ水駅周辺。聖橋のたもとから、JRの同駅に発着する中央・総武線の電車と、その下を通るトンネルから顔を出して神田川を渡る丸ノ内線の電車を1枚に収めることができる。私もしばらくトライしてみたが、3路線の電車がシンクロする瞬間はとらえられなかった。

 撮影の前に、中野坂上から分岐する支線の終点、方南町駅を訪れた。3両編成の電車だけが折り返していた時代を知らないため、延長された6両編成用のホームに降りても感慨はなかったが、その2駅手前の中野新橋駅は1990年代によく利用していた。筆者は当時相撲担当記者で、同駅の近くには若乃花、貴乃花、貴ノ浪らが切磋琢磨していた大相撲の二子山部屋があったためだ。

 二子山部屋はその後貴乃花部屋となり、3年前には江東区に移転。旧部屋がどう使われていたかは分からないが、久しぶりに足を運んでみると、ちょうど3日前から解体工事が始まっていた。貴乃花親方の相撲協会退職で貴乃花部屋は既になく、「平成の若貴ブームの遺構」も姿を消そうとしている。

 ☆藤戸浩一 共同通信社スポーツ特信部勤務

 ※汐留鉄道倶楽部は、鉄道好きの共同通信社の記者、カメラマンが書いたコラム、エッセーです。

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