世帯年収500万未満の主婦は、日雇い派遣で働けないワケ

あなたは、日雇い派遣で働いたことがありますか?事務系職種であればスポットとか単発などと呼ばれています。短期間だけ働く派遣のお仕事です。

例えば選挙の開票業務や資格試験の監督などで一日だけ派遣で働く、というケースなどが日雇い派遣に該当します。

その日雇い派遣が、約7年前の労働者派遣法改正によって原則禁止となったことはあまり知られていません。

原則禁止となってから、日雇い派遣がメディアで取り上げられることは殆どありませんでした。また、派遣で働く人は全雇用者の2.5%(労働力調査2019年6月データより)しかおらず、その中の日雇い派遣だけを原則禁止にしても、直接影響を受ける人は少なかったという事情もあるのかもしれません。

しかし実は、仕事と家庭を両立させたいと考える“働く主婦層”の中には、日雇い派遣を希望する人がたくさんいます。


原則禁止は見直すべき34.0%

今年7月、しゅふJOB総研は働く主婦層にアンケートを行い、「日雇い派遣の原則禁止について見直すべきだと思いますか」と質問しました。(n=694)

ただし、日雇い派遣の原則禁止にはいくつか例外要件があり、その要件を満たせば日雇い派遣で働くことができます。質問に際して、働く主婦層に最も影響がありそうな例外要件を一つ、参考として付記しました。

「<参考>日雇い派遣原則禁止の例外:主たる生計者ではなく500万円以上の世帯年収がある方などは、例外として日雇い派遣で働くことが可能」

有効回答数694人

結果は、「日雇い派遣の原則禁止は見直すべき」との声が34.0%、「日雇い派遣は原則禁止のままで良い」との声が11.4%。半数以上の人は、「わからない」と回答しています。

「わからない」と回答した人の中には、考えてみたもののどちらとも言えないという人もいれば、日雇い派遣で働いたことがなくてイメージがわかない人、原則禁止になっていることを知らなかった人などもいたようです。

世帯年収500万以上という壁

しかし、回答者のうち世帯年収500万未満の人のみを抽出すると数字が変動します。例外要件に該当せず、日雇い派遣で働けない人の方が、現状への不満が強いようです。(n=210)

有効回答数210人

フリーコメントには、「500万円以上だったら単発はいらない」「主たる業務のみで500万は現実的ではない」「そもそも、単発ででも収入得たいのは、500万以下の世帯だからこそだし」などの声が寄せられました。

厚生労働省は、日雇い派遣を「労働契約の期間が30日以内である派遣」と定義しています。原則禁止の例外として認められているのは、政令で指定されている18種類の業務と、以下ア~エまでの業務です。

(ア)60歳以上の人(イ)雇用保険の適用を受けない学生(ウ)副業として日雇い派遣に従事する人(生業収入500万円以上)(エ)主たる生計者でない人(世帯収入500万円以上の場合)

なぜ日雇い派遣は禁止されたのか?

そもそも、なぜ日雇い派遣は禁止になったのでしょうか。厚生労働省のホームページでは、「派遣会社・派遣先のそれぞれで雇用管理責任が果たされておらず、労働災害の発生の原因にもなっていたことから」と説明されています。

ただし、日雇い派遣は原則禁止ですが、日雇いで直接雇用することは禁止されていません。派遣の場合に限り「雇用管理責任が果たされておらず、労働災害の発生の原因にもなっていた」と言えるのかについては様々な見方・意見がありますが、派遣が特に問題視された理由としては、日雇い派遣を専門としていた大手派遣事業者の不正行為が立て続きに発生したことなども影響していると思われます。

では、日雇い派遣が原則禁止になって7年が経ち、問題は解決されたのでしょうか。「日雇い派遣の原則禁止によって、どのような成果があったと思いますか」という質問に対する回答は以下の通りです。(n=694)

有効回答数694人

「労働災害が減った」という声は1.2%、「雇用が安定するようになった」は4.3%。一方、「特に成果があったとは思わない」との回答は51.4%に及びました。

それでも日雇い派遣を禁止すべき理由

働く主婦層の声を聞く限り、日雇い派遣の原則禁止は見直すべきという意見の方が多数派です。しかし、日雇い派遣は原則禁止のままでいいという声もあります。フリーコメントには、以下の意見が寄せられました。

「日雇いは保障がないから」「一家の大黒柱になる人が日雇いでは家庭は維持できない」「法は存在させたままで内容の吟味が必要」「派遣切りなどの悲劇が軽減されるなら」「社員登用が増加する動きを期待したい」

どれも、日本社会で安心して働いていくために大切な指摘だと思います。派遣という働き方を肯定する人も否定する人も、不本意な働き方を強制されたり、そこから抜け出せなかったりするような社会は望まないはずです。

しかしながら、アンケート結果を見る限り、日雇い派遣を禁止すれば解決するというものでもなさそうです。

特に働く主婦層の間では、専業主婦期間を経て仕事復帰するための慣らし期間であったり、家仕事の合間のすきま時間の有効活用など、日雇い派遣ニーズは根強く存在しています。日雇い派遣の原則禁止は、それらのニーズを有する人にとって、働きづらいルールです。

より良いルールの検討を

今回のアンケート結果は、働く主婦層という限られた層の声です。日雇い派遣の原則禁止というルールを見直すべきか否かを判断するためには、もっと広く、労働者層全体の声に耳を傾ける必要があります。

いま、厚生労働省の労働政策審議会にて、日雇い派遣の原則禁止を見直しすべきか議論が進められています。その中で、実態調査が行われることも決まりました。ようやくルール見直しに向けた具体的な動きが始まったと言えます。

2年前、私は日本経済新聞社に『日雇い派遣は主婦を助ける』という記事を寄稿しました。その記事を読んだ方から、当時いただいたメッセージの一部をご紹介します。

「世帯収入500万円の例外要件を利用して日雇い派遣のお仕事を時々しています。しかし、今年夫が定年を迎えるので例外要件に当てはまらなくなりこのまま法改正が行われなければ仕事ができなくなってしまいます。首相の掲げる「一億総活躍社会」・・私も微力ながら自分にできる小さな活躍をしたいのです」

小さくても切実な声は、日本中の至る所で聞かれます。声の大小に惑わされることなく、誰もが働きやすい社会にしていくために耳を澄まし、働くことを希望する人の様々な声が、これからのルールづくりに適切に反映されることを願っています。

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