ホンダ本橋CEが前半戦を総括:ベストレースは3位表彰台のF1ドイツGP。「すべてが噛み合って出せた結果」

 ドライバーラインナップを一新した今季のトロロッソ・ホンダは、開幕戦オーストラリアGPからコンスタントにポイントを獲得したものの、なかなか上位入賞はできず。上位入賞も夏前までは第6戦モナコGPの7位(ダニール・クビアト)、8位(アレクサンダー・アルボン)の一度きりだった。

 しかし7月末の第11戦ドイツGPでクビアトが3位表彰台、アルボンも6位入賞を果たし、コンストラクターズ選手権でも8位から一気に5位に躍進した。

 そんなシーズン前半の戦いぶりを、ホンダの本橋正充チーフエンジニアが振り返った。

――今季前半戦について、どんなふうに見ていますか。
本橋正充チーフエンジニア(以下、本橋CE):戦闘力は去年に比べると、確実に上がっていますね。レース週末の戦い方も、車体、パワーユニット(PU/エンジン)ともに向上しています。ただパワーユニットだけ見ても、ドライバーからダメ出しがあったり、戦略にそぐわない部分もありました。そこは後半戦に向けて、改善すべき点ですね。

2019年F1第11戦ドイツGP ホンダの本橋正充チーフエンジニアもダニール・クビアトを祝福

――今年のマシンパッケージは、去年と違ってホンダ製PU搭載を最初から念頭に置いて開発していましたよね。それも、うまくいったのですか?
本橋CE:そうですね。そこはじっくりと時間をかけたので、妥協なくフィットしています。パッケージとしては、よくまとまってると思っています。

――その辺りも、去年に比べて戦闘力を発揮している一因ですか。
本橋CE:そう思っています。もちろん、パワーユニットも進化していますが。

――テクニカル・ディレクターだったジェームズ・キーの離脱が、開発に影響を与えたということは?
本橋CE:僕はないと思っています。車体のレギュレーションが少なからず変わった中、ここまで戦えていますしね。離脱によるネガティブな部分は、ほとんど感じられないです。

――先ほどの「ドライバーからのパワーユニットへのダメ出し」に関して、具体的な内容とは?
本橋CE:たとえばレッドブルでも出ていた、トルクが少し付いてこない問題などです。トルクに関する問題はトロロッソにも若干出ていました。ふたりとも僕らには新しいドライバーだったので、スロットルペダルの踏み方など、それぞれの乗り方に細かく対応するのは、課題のひとつでした。

 開発側もさることながら、現場側の対応でも不足していた部分があったかなと思っています。それで対応がワンテンポ、ツーテンポ遅れたこともありました。その辺りはハードウェアとチューニングの両方で、より合わせていくことが課題だと考えています。

――この問題はフェルスタッペンが言い出したことで僕らも知ったわけですが、実際にはシーズン当初から多少の差はあるにしろ、4台に出ていたのですか?
本橋CE:いや、ドライバーから要求なり不平として出てくるのは、そのためにラップタイムが落ちている場合ですから、その意味では最近ですね。ここに来てコンマ01秒でも縮めたいというレベルになってくると、そういうところもきちんと手を入れて行く必要があると考えています。

――言い換えると今までは、それ以前に解決すべき問題が多々あったということでしょうか?
本橋CE:それは、ありますね。去年の途中から確実に信頼性が上がってきて、マシンが壊れなくなりました。それでようやく、性能向上に注力できるようになってきています。今年は大きなトラブルも出ていませんし、ある程度土台がしっかりしたことで、ラップタイムをいかに縮めるかを主眼にした開発、そしてチューニングができるようになってきたかなと。

――ふたりのドライバーはドライビングスタイルもずいぶん違う印象ですが、パワーユニットの使い方も顕著な違いがありますか。
本橋CE:乗り方の違いに起因するんですが、スロットルの開け方がダニー(クビアト)の方が急激ですね。なので僕らにとっては、ダニーの方が厳しいです(笑)。

――トルクが付いて来にくい問題も、ダニーの方がより出やすいのですか?
本橋CE:はい。とはいえ(第12戦)ハンガリーGPで、ドライバーからのダメ出しは、ほとんどなかったです。

――アルボンの運転は、開ける場合も、閉める場合もよりスムーズですか?
本橋CE:閉めるのはほぼ同じなんですが、開け方ですね。そこはドライバー4人が、それぞれ違います。そのため柔軟に対応しています。それも現場での役割のひとつだと思ってますので。

――前半戦、本橋さんの最高のレースは、言うまでもなくドイツGPでの表彰台ですか。
本橋CE:そうですね(満面の笑み)。本当にすべてのパフォーマンスというか、車体、パワーユニット、戦略、ドライバーの頑張り、すべてが噛み合って、出せた結果だと思います。

7月末の第11戦ドイツGPでクビアトが3位表彰台、アルボンも6位入賞を果たしたトロロッソ・ホンダ

――長くレースをやっていても、そうそう起きることではないですね。
本橋CE:そう思います。

――アルボンにしても、上位入賞の可能性が十分にありました。
本橋CE:そこは少し残念なところです。レースなので、何があるかわからない。その中で最大限のパフォーマンスを発揮するのが、醍醐味でもあるわけですが。

――シーズン後半戦は、ドライコンディションでもあれだけの走りができそうな手応えはありますか?
本橋CE:ありますよ。ドイツGPから学んだこともたくさんありますし、その次のハンガリーGPですでに改善した部分もあります。それでもまだ車体、パワーユニットともに課題はいくつも上がってますが、ひとつひとつクリアしていくつもりです。惜しかったねという戦いから、もうひとつ上のレベルに上がる。それが後半戦の目標です。車体もパワーユニットも今後のアップデートが期待できます。

F1第12戦ハンガリーGP

――本橋さんの「惜しかったね」というのは、Q3に行けるか行けないかという予選がひとつの典型ですね。

本橋CE:はい。予選順位の向上は、ひとつの課題です。金曜日から土曜日にかけてのセットアップはうまくいったのですが、ただイニシャルセッティングが合っていないと、初日の作業量が増えて対応しきれないこともあります。予選そのものでは、トラフィックに引っかかることが何度もありました、そこも改善点のひとつだと思っています。

――レースペースは悪くないのにポイントに届かなかったのは、やはり予選順位が響いていますか?
本橋CE:そう思います。中団グループはパフォーマンスも接近していることから、レース中も集団になって走るシーンが多いです。その場合、その中での車体挙動やタイヤ温度などが、今ひとつ掴みづらかったりします。クリーンエアとの違い、変化の大きさをきちんと戦略に取り込んでいくことが、必要になるでしょうね。

――中団グループではマクラーレンが頭ひとつ抜けてますが、それ以外のチームとは十分戦える手応えは感じていますか?
本橋CE:はい、十分に感じています。なので取りこぼしなどを極力防いで、取れるポイントをきちんと取っていく。それができないと、中団グループの中で上に行くのは厳しいでしょうね。

F1第12戦ハンガリーGP

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