<レスリング>【特集】東京オリンピック出場枠獲得にかける(8)…男子フリースタイル65kg級・乙黒拓斗(山梨学院大)

(文=東京スポーツ新聞社・中村亜希子)

乙黒拓斗(山梨学院大)

 日本男子の若きエース、乙黒拓斗(山梨学院大)が初のオリンピック出場枠獲得に挑む。昨年、19歳で初出場し、日本男子史上最年少記録で初優勝を遂げたブダペストの世界選手権から1年。「もちろん2連覇したいです。東京オリンピックもありますが、まず一番近いのが世界選手権。ひとつ、ひとつ丁寧にやっていければ優勝できる自信はある」と力を込めた。

 現在、課題に挙げているのが「レスリング力を上げる」こと。昨年末の全日本選手権後、右ひざ痛などで思うように練習ができなかったことで、鈍ってしまった自分だけの感覚を取り戻し、さらに向上させることだという。

 自らを世界の頂点に押し上げた「レスリング力」とは一体なんだろうか? 「タイミングだったり、自分の組み手だったり、相手との距離感だったり。感覚というかイメージというか。トレーニング面はしっかり追いついて練習できているんですけど、レスリング力がまだ少し慣れていない感じなので、今はもうレスリング、レスリングです。最後の最後に世界のトップと闘えるくらいの部分のために、もう少しやるべき。もっと成長すれば、いい結果になると思うので伸ばしたい」と妥協なく自分を追い込んでいる。

6月の全日本選抜選手権でつまずいた乙黒拓斗=撮影・矢吹建夫

 この1年で最高の喜びもどん底の苦しみも経験し、アスリートとしてひと回り成長した。最大の試練が訪れたのは今年6月の全日本選抜選手権だ。決勝で2016年リオデジャネイロ・オリンピック57kg級銀メダルの樋口黎(日体大助手)に敗れた。

 敗戦後は落ち込み、苦しんだ。家族やコーチのサポートもあり、復活してプレーオフで勝利。「みんなの協力があって勝てた」と涙を浮かべながら感謝の気持ちを伝えた姿が印象に残った。「負けたら今の自分の目標がなくなっていたかもしれないし、自分の人生を賭けての試合だった。緊張感から解放され、少し安心して(こみ上げた)部分もあった」と振り返り、極度の緊張を乗り越えて勝った一戦だった。精神的にも、さらにタフになったはずだ。

「緊張感は集中につながる。緊張をいい方向へ」

 また、「引きこもってしまった時もあったので、家族がドライブなど気晴らしに連れて行ってくれたり、コーチが技術面や修正点をアドバイスしてくれたり。それこそ、みんながつきっ切りでサポートしてくれたんです」と、周囲の助けがあってこその勝利と実感した。

8月の全日本合宿で練習する乙黒拓斗

 苦労してつかみ取ったチャンスを、あとはしっかりものにするだけだ。オリンピック出場枠がかかる今年の世界選手権は、下の階級から上げてくる選手もいて強豪がひしめく。

 「優勝から1年が経ち、どのくらいいけるのかと楽しみもあるし、自信もあるんですけど、怖さも少しはあります。でも、それで気持ちが引き締まっていい緊張感になるかもしれません。6月はふわふわした感じで行って甘さが出た。何事も100%はないし、自分がしっかり準備しないとああいう結果になってしまうと勉強になりました。緊張感は集中につながる。緊張をいい方向に持っていけたら」。

 苦い経験から多くを学んだ20歳は、自分に言い聞かせるように気持ちを高めている。


2019年世界選手権=東京オリンピック第1次予選(9月14~22日、カザフスタン・ヌルスルタン)

男子フリースタイル65kg級代表・乙黒拓斗(山梨学院大)
 1998年12月13日生まれ、20歳。山梨県出身。JOCエリートアカデミー/東京・帝京高卒。173cm。キッズ時代に全国少年少女選手権5連覇を達成。2012年に中学の全国2大会を制覇。2014年にインターハイで1年生王者へ。2015年には高校3冠王に輝くとともに、世界カデット選手権54kg級で優勝。2016年にインターハイ3連覇を達成。負傷で1年以上のブランクのあと、2018年に65kg級で日本男子史上最年少の世界王者に輝いた。

略歴(詳細) JWFデータベース UWWデータベース 国際大会成績

男子フリースタイル65kg級・展望=制作中 / 5位以内がオリンピック出場枠獲得、3位以内は協会規定により日本代表に内定

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