F1ドライバーへの道はまだ見えず。ランキングで下位に沈むミック・シューマッハーは実力不足なのか【FIA-F2コラム】

 ミック・シューマッハー(プレマ・レーシング)がFIA-F2で苦戦している。第8戦ハンガリーを終えた段階でドライバーズランキングは45ポイントで11位。ランキングトップのニック・デ・フリース(ART)は196ポイントを獲得しておりその差は歴然だ。

 しかし、イギリス出身のF1ジャーナリスト、クリス・メッドランドによると、ミック・シューマッハーは決してパフォーマンスが低いわけではないという。その理由を語った。

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 シューマッハーという姓を持つことは、現在のモータースポーツ界においては最も厳しいことだ。

 かつてアイルトン・セナの甥であるブルーノ・セナに寄せられた関心と、彼が初めてF1マシンをドライブするチャンスを得た時にどれだけのプレッシャーが彼にのしかかったかを我々は皆覚えているだろう。だが私は通算7回のドライバーズチャンピオンに輝いたミハエル・シューマッハーの息子ミック・シューマッハーへのプレッシャーはいっそう大きいものだと考えている。

 史上最も成功したF1ドライバーの息子として、まわりには詮索の目が常に多く存在する。だがミハエル・シューマッハーの健康に関する悲劇的な状況と、そのことについての情報の少なさが、ミックの活動について別のレベルの関心を引き寄せている。

 シューマッハーの姓は助けにもなり、負担にもなると私は考える。

 もちろんこの姓は助けになる。なぜならミックに寄せられる関心は、他のドライバーなら到達することができないかもしれないレース参戦への扉を開くことになるからだ。たとえば、ミックにとってスポンサーを見つけ、メディアへの露出を増やすことは難しいことではないだろう。

 だが名前自体は、業績を達成するのに必要な才能をミックに与えてくれはしない。ミック自身のハードワークとスキルによってのみ、そうした結果を出すことができるのだ。また多くの人々が、ミックが与えられたチャンスに値するのか疑念を抱いていることから、そうした人々を納得させるために、他のどのドライバーよりも優れたパフォーマンスを発揮しなければならないという、不都合な側面もある。

2019年F1バーレーンテストでアルファロメオC38をドライブするミック・シューマッハー

 これまでのFIA-F2シーズンが、最もたる例だ。

 ミックはまさに最初のレースウイークから、自身にスピードがあることを示した。開幕戦バーレーンでミックは予選で10番手につけ、ルーキーとしては首位だった。両レースでポイントフィニッシュを果たし、着実に8ポイントを獲得してシーズンスタートを切ったのだ。

 第2戦バクーでの6番グリッドは、またしてもルーキーとしては最高順位だったが、その後のレースで最初の大きなミスを犯してしまった。レース1において、強力なトップ6のポジションからスピンを喫したことは高くついた。たとえ、翌日のスプリントレースで優れた走行を見せ、19番グリッドから5位に順位を上げたとしてもだ。

 そして最初の芳しくないレースがミックの週末全体を台無しにしたことで、ある認識が生まれてしまった。第3戦スペインではまたトップ10スタートを切ったものの、ファーストラップでのミスでミックはスピンを喫し、最終的に15位でフィニッシュした。スプリントレースではペナルティを受け、まったくポイントを獲得することができなかった。

 しばしば見落とされていると私が感じることは、昨年のFIA-F2で何が起きたのかということに基づいた、ミックのルーキーとしての立場だ。2018年は新型マシンの導入によって競争の場はより公平となった。ルカ・ギオットから聞いた話だが、新型マシンの導入でこれまでの経験のあるドライバーのアドバンテージがなくなってしまったのだという。そのため2018年はルーキーがタイトル争いをしていたのだ。

 今年、経験のあるドライバーたちはアドバンテージを取り戻した。現在のチャンピオンシップランキングが証明しているが、最高位にいるルーキーは6位の周冠宇(チョウ・グアンユー)だ。

 つまり第4戦モナコの予選結果のように、ミックが彼のグループで2番目に速く、レース1を4番手からスタートしたということは、特に目覚ましい成果なのだ。だが、レース中にタチアナ・カルデロンと接触したことで、ピットストップ後のミックのレースは損なわれてしまった。

 そしてレース1の不振が、レース2を台無しにするという例がふたたび起きてしまった。

 だがそれは常にミックのせいというわけではない。第5戦フランスでミックはまたトップ10スタートを切ったが、今回は彼のチームメイトのショーン・ジェラエルによって強力なスタートが台無しにされた。ジェラエルはミックを数コーナー先でリタイアさせたのだ。大きな結果の可能性はなくなり、ミックはレース2からもリタイアしたことで、2レースともDNFとなった。

■第8戦ハンガリーのレース2優勝は、「運がよかった」?

 今では記者は、ドライバーについて結果のみに基づいて記事を書く。特にF2ではそうだ。なぜならF1で仕事をする多くの記者は、結果をチェックするか、レース中にもテレビ画面に目を向けている。彼らはすべてに注意を払うには忙しすぎるのだ。

2019年第8戦ハンガリー レース2で優勝したミック・シューマッハー

 すべてのことに注意が払われないことで、結果自体が誤解を招くことになる。そしてシューマッハーは不当にも、不調なシーズンを送っていると見なされたのだ。第8戦ハンガリーでのミックに対する反応は、運が良かったのでスプリントレースに勝てたか、もしくはマシンの調子が良かったのだろうというものだった。

 だが、そんなことはない。ミックは年間を通してパフォーマンスを発揮しており、レース1でトップ8フィニッシュを果たしている。そしてスプリントレースではトップからリードしていた。たとえマシンが特に速くなくてもだ。ハンガリーでシューマッハーは、2018年と同様に、首位にいる際のプレッシャーに対処する能力を見せた。2018年にシューマッハーは多くのヨーロピアンF3選手権のレースを同じやり方で勝利したのだ。

 今後の兆しは前途有望だ。彼は現在ルーキーの中で3番手にあり、多くの不運な場面に見舞われてきた。シューマッハーがシーズン後半でさらに表彰台を獲得し、スプリントレースで勝つこともあるだろうという期待はまだある。だが私は彼のキャリアにとって最善なことは、もう1シーズンをF2で送ることだと考えている。

 このレベルでは経験に大いに価値がある。シューマッハーがFIA-F3の2年目のシーズンで、経験を用いてチャンピオンシップを制覇したように、彼はF1昇格を考える前にまずは2020年シーズンにレース1での勝利とトップ5入りを目指すべきだ。

 シューマッハーの名前は、彼がF1に到達できるチャンスがあることを意味するし、彼にはそれに見合うスキルもあるだろう。だがF2での強力なシーズンから結果を出すことで、彼は考える時間が持てるだろうし、F1に昇格するとなった時のために、さらに忍耐を身に着けることができるはずだ。

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