上手投げ→サイド転向1か月で153キロ 悩めるドラフト候補を救ったきっかけ

ルートインBCリーグ新潟に所属している前川哲【写真:編集部】

新潟アルビレックスBC 23歳の前川哲投手の夢はNPB入り

 ルートインBCリーグの新潟アルビレックス・ベースボール・クラブの試合に、スカウトがチェックに来る選手が何人かいる。その中の一人が、今季で入団5年目となる前川哲投手。背番号18を付けた主戦投手で首脳陣からの信頼も厚い。そんな右腕がオーバースローからサイドに転向し、自己最速の153キロを計測した。

 前川は新潟産業大学附属からBCの新潟入り。オーバースローから150キロを投げる剛腕だった。しかし、思うような成長曲線を描けず、試行錯誤の日々が続いていた。

「オーバースローから150キロを出せるのが売りだったんですが、若さとスピードだけではダメ。もう一歩、進化をしないといけないと考えました」

 頼ったのはいつも親身になって相談に乗ってくれる元日本ハム投手の清水章夫監督と、元巨人捕手のコーチ兼球団社長補佐の加藤健氏だった。

 今年の7月。サイドスローの方が体にフィットするのではないか、スピードも維持できれば、打者が嫌がる投手になるのではないかというプランが話し合いの中で生まれた。

 前川も少しだけ、興味は持っていた。しかし、すぐに受け入れられなかった。せっかくトレーニングを積んで得た150キロ超えの直球を手放すことになる。

「悩んだ時期もあったんですけど、信頼する監督、コーチがチャレンジしてみないか?と、今年の後半の時期に言ってくださるということは、自分をNPBに行かせてあげたいという気持ちも伝わってきました。思い切ってチャレンジしようと思いました」

 最初は投げているうちにだんだん腕が上がってきてしまったが、首脳陣の助言から形になってきた。自分でトレーニング方法も見つけ、メカニックの面でボールに力を伝える方法を模索。転向後、中継ぎから再スタートし、今は先発している。コントロールに苦しんでいるが、新しい発見もあった。

「今までにはなかった打者の反応が見られたり、変化球も違うので、野球人生が変わったような感じです。ボールがナチュラルにシュートするので、甘い球なのに、詰まらすことができたりするのはオーバースローではなかったです。まだまだ思ったところに投げられていないので練習します!」

 転向から1か月。先日の試合ではサイドで自己最速タイの153キロが出た。

「驚いた部分もありますが、まだまだ球速は出せるなという自信があるので、いい方向には進んでいます。けど、完成したとは思っていません。もう少し投げ方であったり、感覚だったり、成長できる部分があるかなと。その途中で153キロが出たというのは、すごくプラスにとらえていきたいです。監督、コーチには非常に感謝をしています」

 指導者たちへの感謝を、チームの勝利を導く投球で示すことが前川の今の切実な思いだ。簡単にNPBに行けるとも思っていない。しかし、スカウトがチェックをしていることは事実。野球と向き合う試合はどうか、将来性があるのか、ここで終わってしまうのか、真価が問われるのはこれからだ。(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)

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