つちやかおり「恋と涙の17才」湯川れい子が描いた微妙な乙女心 1982年 6月21日 つちやかおりのデビューシングル「恋と涙の17才」がリリースされた日

80's Idols Remind Me Of… vol.11
恋と涙の17才 / つちやかおり

『熱中時代』に続いて学園ドラマの金字塔となった『3年B組金八先生』、その第1シーズンに(79~80年)出演していた、教壇の目の前に座る、“やたら小さくてめちゃくちゃ可愛い生徒役の女の子” を覚えている方も多かったのではないだろうか。

かくいう筆者は放映当時高校2年生、毎週『金八先生』を観ていて、このやたら小さくてめちゃくちゃ可愛い女の子に知らず知らずのうちにべた惚れ状態。しまいには “この娘だけ1時間映してればいいのに~” なんて思ったりしていたものだ。バカですね。

その生徒役の女の子こそが “つちやかおり” で、ドラマ出演からおよそ2年後の82年6月にアイドル歌手としてデビュー、華やかな80年代アイドルシーンの一角を彩ったわけだ。満を持してリリースされた初シングルは、「恋と涙の17才」。

82年デビューということは、“花の82年組” の中核を形成する一員として君臨することになるわけだが、並み居る精鋭たち(中森明菜、小泉今日子、石川秀美、早見優、堀ちえみ…)の中で少し遅れてデビューした つちやかおり に準備された仕掛けとは…。

彼女に用意された楽曲は、60年代洋楽オールディーズヒット「You Don’t Own Me」(64年2位)の日本語カバー。原曲を歌った米女性シンガー、レスリー・ゴーアの、延いてはそれを日本語で歌った弘田三枝子、中尾ミエのカバーを意識していたのだろうか。

そもそもは男性の呪縛から離れて女性の自立を宣言するような歌詞の曲で、弘田・中尾バージョン(それぞれ異なった日本語歌詞)も概ねそれに準じていた。対して、つちやバージョンは、松本伊代の頭2曲でアイドル作詞シーンに参戦した湯川れい子氏によって、ガラリとその世界観を変えてきたのだ。

意中の男性に対して、オトナへの一歩を踏み出したい(踏み出してほしい)、でも怖い、でも… という17才の微妙な乙女心を描いたもの。

「ゆれる夏がこわい」
「波にさらわれそう」
「わからないの 動けないの(独白)」
「砂に埋めて どうぞ 張りつけにしたら」

… なんというか、古典的な世界観のオンパレードともいえる歌詞が、大仰なマイナー調、重厚感、不穏な雰囲気がごちゃ混ぜになったサウンドと相まって絶妙なバランスを保っているではないか! それは、シティポップ化するアイドルソング・シーンとは大いに一線を画す、つちやワールドが誕生した瞬間だった。

また、明らかにセクシャルを想起させる部分もあって、「少しさわられて泣きだしてしまう」のに、「あきらめないで」「悲しそうな目付きをしないで」「上から抱いてね」… と願いながら最後は、

「なぜ、なぜ、なんにも してくれないの?」

… と懇願連呼! こんなシチュエーション、とにもかくにも17歳の つちやかおり にこんなこと言わせるなんて、それでいてしっかりと処女性をもキープしているなんて… 湯川れい子先生の策は見事としか言いようがない。

この独自のつちやワールド路線、送り手側が結果をどう判断したかはわからないが、長くは続かなかった…。しかし、類まれなる高い歌唱力をもってして、ちっちゃな身体で歌いきる つちやかおり の毅然とした姿は、いつまでもこの目に、この耳に焼き付いて離れない。

※2019年4月9日に掲載された記事をアップデート

カタリベ: KARL南澤

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