またも米国株が急落、8月最終週の日本株市場はどう動く?

世界の株式相場が不透明感に覆われています。8月23日の米国株式市場は大幅に下落。ニューヨークダウ平均は前日比623ドル安(▲2.37%)で取引を終えました。

一方、米国の10年物国債が買い進まれて、利回りは一時1.5%割れを記録。ニューヨーク市場では金の先物価格が1トロイオンス=1,500ドル台を突破し、6年4ヵ月ぶりの高水準に達しています。

いずれも先行き不安が高まった局面で買われる「安全資産」。投資家の間で、株式などのいわゆるリスク資産へ資金を振り向けることを回避する「リスクオフ」の動きが強まっているのを示唆しています。


鮮明になる「安全への逃避」

今回の米国株急落の主因は、米国と中国の通商摩擦の激化に対する懸念の高まりです。中国が米国の制裁関税「第4弾」に対する報復関税を発表。これを受けて米国のドナルド・トランプ大統領がツイッターで自国企業に対し、「中国から撤退して米国で生産せよ」とつぶやくなど、両国間の溝は深くなるばかりです。

株式相場を取り巻く懸念材料は他にも山積しています。現実味を帯びる英国の欧州連合(EU)からの「合意なき離脱」、イタリアの連立政権を率いるジュゼッペ・コンテ首相の辞意表明、アルゼンチンでのバラマキ政策を掲げた野党候補の大統領就任のシナリオ浮上、韓国政府による日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄など、枚挙にいとまがない状況です。

米国株の値動きからも、投資家の「安全への逃避」が鮮明になっています。下のグラフは、今年に入ってからのダウ輸送株平均と公共株平均の推移を示したもの。2018年末を100として算出しました。

グラフを見ると、輸送株平均は4月まで上昇を続けましたが、それ以降は乱高下ぎみ。一方、公共株平均は年初から右肩上がりの状態で、足元は輸送株を上回るパフォーマンスを上げているのがわかります。8月22日時点では約18%の上昇です。

「輸送株<公共株」が意味すること

「ダウ」といえば通常、ニュースなどで取り上げられるのは「ダウ工業株30種平均」。冒頭の「ニューヨークダウ平均」も「工業株平均」のことです。これに対して、輸送株平均は鉄道、物流など20社の株価を基にはじき出した指数。公共株平均は電力、ガスなど15銘柄で構成されています。

輸送株平均には景気変動に敏感な側面があるといわれます。産業のサービス化が進んだのに伴い、「以前に比べて実体経済を反映しなくなった」との見方もありますが、「景気敏感株の代理変数」としていまだに注目する市場関係者が少なくないのも事実です。

公共株平均は景気の変動に左右されにくい、いわゆる「ディフェンシブ株」の値動きを反映した指数という位置づけ。配当を株価で割った「配当利回り」が高いのも、公共株の特徴です。

つまりグラフからは、景気変動の影響を受けにくく、利回りの高い銘柄が買われる一方、景気の浮き沈みに敏感に反応する企業の株が売られやすくなっていることが読み取れるわけなのです。

日本株市場はどう動く?

では、日本の株式市場でも今後、配当利回りの高い銘柄を買う流れが強まる可能性はあるのでしょうか。

「今のところは高配当利回り株に対する買い意欲は高まっていない」――。ある国内証券のストラテジストはそう指摘します。

「東証配当フォーカス100」と呼ばれる指数をベンチマークにした株価指数連動型上場投資信託(ETF)の「上場インデックスファンド日本株高配当」の値動きがその証左です。

たばこのJTは代表的な高利回り銘柄の1つ。予想配当利回りは8月23日の時点で6%を超えますが、株価の動きは軟調です。

実質利回りの高い銘柄が好調だが…

株式投資の物差しの1つに「実質利回り」と呼ばれるものがあります。株主優待を金額換算した「優待利回り」に予想配当利回りを加えて計算します。

「ルタオ」などの菓子店でおなじみの寿スピリッツ、婦人衣料の店を展開するハニーズホールディングス、東京ディズニーリゾート運営のオリエンタルランド、牛丼の吉野家ホールディングス……。これらの株価が堅調な銘柄に共通するのは、株主優待を実施していることです。

となると、「実質利回りの高さに注目した買い物が入って株価を押し上げている」と考えがちですが、現実には「足元の良好な業績が手掛かりになっている面が強い」(前出のストラテジスト)といいます。

株価収益率(PER)や株価純資産倍率(PBR)などから判断して割安な「バリュー株」よりもむしろ、利益成長を伴う「グロース株」に人気の集まる株式相場。業績面で安心感のある銘柄に物色の矛先が向けられているのも、不透明感の強さの表れといえるのかもしれません。

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