【MLB】投手・オオタニ復活を見守る、もう1人の新人王 09年アスレチックス守護神の今

エンゼルスなどでプレーしたアンドリュー・ベイリー氏【写真:Getty Images】

2009年新人王の元右腕ベイリー、今季からエンゼルスのブルペンコーチに就任

 エンゼルスには新人王が4人いる。2001年のアルバート・プホルス、2012年のマイク・トラウト、2018年の大谷翔平、そしてもう1人は2009年のアンドリュー・ベイリーだ。アスレチックスの守護神として6勝3敗26セーブ、防御率1.84の堂々たる成績を挙げた元右腕は、今季からブルペンコーチとしてエンゼルスを支えている。

 新人王獲得から10年。35歳のベイリーは役割こそピッチャーからブルペンコーチに変えたが、「好きな野球に携わることができて毎日が楽しいよ」と満面の笑みを浮かべる。

 2006年ドラフト6巡目でアスレチックス入りすると、2009年4月6日エンゼルス戦でメジャーデビュー。早くも5月から守護神を任されると、フォーシーム、カット、緩急差のあるカーブを駆使して、ア・リーグ西地区の強打者を次々とアウトに仕留めた。少しポッチャリ体型のベイリーが試合を締めくくり、誇らしげに笑顔を浮かべながらマウンドを降りる姿は、野球少年そのものだった。

 ルーキーながらオールスターに選出されると、レンジャーズのエルビス・アンドラスを1ポイント差で抑え、新人王を獲得。翌年は25セーブ、2011年は24セーブの活躍を見せたが、同年オフにレッドソックスへトレードされると風向きが変わった。

 2012年のスプリングトレーニングで右親指を負傷してシーズンを出遅れると、翌年には右肩を負傷して手術を受けることに。現代のスポーツ医学では、ピッチャーにとって肘よりも肩の怪我の方が致命傷になり得るとされている。肩の関節包や関節唇を負傷し手術を受けた投手が、戦列復帰して活躍した例は少ない。

「またマウンドに上がりたいという想いだけで、とにかく一生懸命リハビリに励んだ。問題なく投げられる日があれば、違和感を感じる日もある。いくら野球が好きだといっても、さすがにこの時だけは嫌いになりかけたよ(笑)。でも、もう一度メジャーのマウンドで投げたい、投げられる、そう信じて、トレーニングし続けたんだ」

 レッドソックスから契約解除され、拾われたのがヤンキース。傘下マイナーで迎えた2シーズン目の最後でチャンスは巡ってきた。9月1日のロースター枠拡大に伴いメジャー昇格すると、翌2日のレッドソックス戦で782日ぶりのメジャー登板。メジャー復帰の目標は果たしたが、エンゼルスに所属した2017年、再び肩を痛めて、引退を決意した。

「大学では経済や財政を学んだから、引退後はキャリアチェンジをすることも考えていた。そんな時に、ビリー(エプラーGM)から『球団スタッフとして野球を続けてみないか?』と打診があったんだ。それで去年、まずはコーチのアシスタントとして野球と関わるようになったんだ」

“後輩”大谷の復活をサポート「今の楽しみの1つでもあるんだ」

 今季からはブルペンコーチに“昇格”。コーチとして携わる野球は、選手として携わる野球とまったく違い、新鮮な日々を過ごしているという。

「チェスに例えると、選手はコマで、監督はコマを動かすプレーヤー。その監督の下で準備を進め、戦略を立てるのがコーチだと思うんだ。今まではコマとして動かされる立場で、自分が何をするべきかに集中していた。でも、今はチーム全体を俯瞰して、それぞれのコマをどう動かせば勝利に結びつくのか、より広い視点で野球を見るようになったんだ。

 ブラッド(オースマス監督)やJP(ジョシュ・ポール・ベンチコーチ)から戦略を聞きながら、ブルペンをマネジメントする。野球ってこんな側面も持っていたんだ、こういう考え方もあったんだって、毎日新しい発見ばかり。それに、自分が怪我をした経験も、今では選手に伝える教材として活用することができる。ますます野球が面白くなってきたよ」

 そう言いながら、現役時代と同じ笑顔を浮かべるベイリーだが、今の楽しみの1つは投手・大谷の復帰過程を見守ることだという。24日(日本時間25日)に行われた術後12度目のブルペン投球では、スライダーを初めて投げるなど、大谷は来季の“二刀流”復活に向けて着実に歩を進めている。

「彼は今まで誰も成し遂げたことのない全く新しいことにチャレンジしている。本当にエキサイティングな選手だ。それをチームの一員として間近で見られることは、この上にない幸せに感じる。投手・オオタニが戻ってきてくれることは、もちろんブルペンコーチとして大歓迎だ。大幅な戦力アップになるからね。ありがたいことに、彼が復帰までの階段を上がる過程を目撃することができている。今の楽しみの1つでもあるんだ」

 また、新人王の“先輩”として、受賞者が感じるプレッシャーや期待の高さも熟知。“後輩”大谷はプレッシャーにうまく対応していると評価した。

「周囲からの注目やプレッシャーが高まるのと同時に、自分が自分に対して大きな期待をかけてしまうこともある。もちろん、自分はこれだけできるんだ、この数字は超えられる、といった自信は必要だけど、往々にして自分で必要以上のプレッシャーをかけてしまうもの。そのあたりをショウヘイは上手く対応していると思うよ。選手としてはもちろん、1人の人間としても、知れば知るほど興味深い存在だ。何度も怪我を経験した元投手としても、上手くサポートしながら、投手・オオタニの復帰を見守りたいね」

 2018年ア・リーグ新人王が歩む復活の道のりを、2009年ア・リーグ新人王は温かい目で見守り、サポートしている。(佐藤直子 / Naoko Sato)

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