「祖父に見てもらうまで…」家族想いの21歳美女 売り子の世界は「泥臭い」【福岡発 売り子名鑑2019】

キリンビールの「かれん」さん【写真:福谷佑介】

鹿児島県出身の「かれん」さんは一塁側内野を主な持ち場にする

 スタジアムでの野球観戦、そのお供として楽しみにしている人が多いのが、キリッと冷えたビールだ。連日暑さの続くこの季節、その味わいは一層美味しい。そして、そのビールに欠かせないのが球場の“華”として日々、汗を流して働く各ビールメーカーの売り子たち。10キロを超えるビールのタンクを背負い、階段ばかりの球場内を歩き回るのはかなりの重労働。日本独特の文化で、実はスタジアムを訪れる外国人観光客からの注目度、人気も高い。

 福岡ソフトバンクホークスの本拠地ヤフオクドームで働く売り子たちも、それぞれに人間模様があり働いている。“美女どころ”と言われる福岡の売り子を紹介する人気企画「福岡発 売り子名鑑2019」。彼女らの奮闘を知っていただき、球場での観戦の楽しみの1つとしてもらえたら幸いだ。

 第10回はキリンビールの「かれん」さん、だ。

 現在、大学3年生の彼女は鹿児島県出身の“かごんま”。大学進学を機に、福岡に移り住み、売り子の世界に飛び込んだ。一塁側内野席を主な売り場とし、今季が売り子歴3年目のシーズンだ。

 野球好きな祖父や両親の影響で「かれん」さんも野球好き。母校が甲子園に出場したこともあり、より一層、野球が好きになった。「祖父もせっかく福岡に行くなら、ヤフオクドームがあるだろうと。友達も勧めてくれて応募してみました」。

 もともとは売り子という仕事を知らなかった。友人から売り子の存在を教えてもらい、応募した。「ドーム内にある売店とかでいいかなと思っていた。そもそも未成年なのにビール売っていいとも思ってなくて。入ったら高校生とかもいてびっくりしました」。まさに未知の世界だった。

始めた当初はプレッシャーも「軽い気持ちでやるんじゃなかったと」

「もっとキラキラしたような感じだと思っていた」とイメージして始めた売り子の仕事は「こんなに泥臭いのか、と思いました」という。毎日、その日の売り上げが発表され、ランキングされる。否が応でも周囲との競争意識が生まれる。だからこそ「楽しくやりましょうというのがあるのと同時に、競争があるので。同期たちには負けたくないなという気持ちはあります」という。

 始めた当初はプレッシャーにも苛まれた。「毎試合プレッシャーが酷くて、軽い気持ちでやるんじゃなかったとも思いました。1年目、慣れるまでは出勤前に毎日、お腹が痛くなっていました。ちゃんと売れるのかな、売れなかったらどうしようという緊張で…。何杯売らなきゃいけないとかはないんですけど。変に緊張しちゃって」。それでも、3年間、仕事を続けられたのにはワケがある。

 その最大の理由が家族、野球が大好きだという祖父の存在だ。「ドームで働いているというと、祖父が喜んでくれるんです。年も結構とっているんですけど、できれば、売り子している間にドームに来てもらって、売っているところを見てもらいたいなと思っています。両親も『連れて行きたいね』と言ってくれているので、見てもらうまでは辞められないですね」。一度でいいから、祖父にヤフオクドームで働いているところを見てもらいたいと願っている。

 負けん気もある。「始めたからには途中で辞めたくないんです。途中で辞めて逃げているようになるのは、中途半端になるのは嫌だったんです」と「かれん」さんは語る。そして、ファンの存在。「これまで出勤日数も多くなく、たまにしか出勤できていなかったのに『待っていたよ』『昨日も探したんだよ』と言ってくださるのは嬉しいです」と、売り子としてのやり甲斐を感じている。

「売り子自体が部活のような感じなので、凄く楽しいです。ただのバイトではない感じがします」と売り子の魅力を語る「かれん」さん。祖父と家族にその姿を見てもらう日を目指し、今日もファンに笑顔で接していく。(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)

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