京アニ事件、京都府警が「実名公表拒否」とした複数遺族が否定も

©株式会社京都新聞社

事件の現場近くにあった献花台(京都市伏見区)

 京都アニメーション(京アニ)第1スタジオ放火殺人事件の全犠牲者の身元が27日、明らかになった。京都府警は当初から犠牲者全員の実名を公表する考えを示してきたが、「遺族の了承が必要」とする警察庁との調整が難航。事件発生から1カ月以上たっての公表という異例の展開となった。一方、府警が「実名公表を拒否している」としていた複数の遺族が京都新聞社の取材に「拒否していない」と証言した。今回の実名公表は、捜査当局が遺族一人一人の意向を正確にくみ、代弁することの難しさを浮き彫りにした。

 府警はこれまでから、殺人事件や交通事故で犠牲になった人の氏名を報道各社に公表してきた。当事者の安否に関わる情報を社会で共有することは有益だと考えているからだ。

 京アニ事件が発生した当時、第1スタジオには犠牲者35人を含む計70人の従業員がいた。その多くは、映画やテレビ作品の終幕に製作関係者として氏名が紹介され、中には著名なクリエーターもいた。現場近くの献花台には連日、大勢のファンや知人が詰めかけ、「あの人は無事か」「亡くなったのは誰か」と従業員の安否を案じた。

 府警は事件翌日の7月19日、犠牲者の氏名について「身元を特定次第、速やかに公表する」と報道各社に説明した。ところが3日後、京アニから「被害者や遺族のプライバシーが侵害される」として、実名発表を控えるよう要請されたのを機に状況が一変した。警察庁から「公表には遺族の了承が必要」との条件を示され、従来方針との間で板挟みとなり、公表時期がずれ込む結果となった。

 一方、府警はこの間、未公表となっていた犠牲者25人について、「遺族が実名公表を拒否している」としてきた。だが、京都新聞社の取材に応じたある遺族は「公表を拒否した事実はない。生前にお付き合いがあった方、交友関係が軽い人も含めて、消息を伝えられない状態はおかしい。府警には最近、積極的に氏名を公表してほしいと伝えている」と語った。

 別の遺族も、理不尽に命を奪われた娘を悼み、生きた証しを伝えたいとの思いから、報道各社の取材に事件発生当初から応じてきた。娘の氏名は27日にようやく公表された。「警察から意見を聞かれたことはなかった。何でやろう」といぶかしむ。

 府警は、27日に犠牲者25人の実名を公表するのを前に、遺族と面会したり、連絡を取り合ったりして、実名公表に対する意向を確認してきたという。捜査関係者は「遺族の精神的ショックは大きく、警察官との対面を拒む人もいる。意向を正確に把握するのは非常に難しい」と打ち明ける。

 犠牲者の実名公表に対しては多様な見方がある。一つの遺族内で意見が分かれるケースがあっても不思議ではない。警察が示してきた「遺族の意向」とは何を意味するのか。実名公表の在り方を含め、丁寧な検証が求められる。